罠: 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった! (2017)

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国内の猟奇的殺人についてはある程度知識があるつもりだったが、この埼玉愛犬家殺人事件についてはノーマークだった。二十数年前に起きたこの事件は、判明しているだけで4名が殺されて、証拠隠滅のためにバラバラにされている。著者に言わせると、主犯の男は日本では存在自体が珍しいシリアルキラーらしい。

この手の本を読む時の自分の関心は、犯人の育成環境や思考回路など、何故このような犯罪を犯すことができたのかを知るための人物像。つまり、全く自分と異なる未知の人間を知りたいという欲求が原動力となっている。その点でいうと、この本は司法権力のインチキを暴きながら、主犯の妻(同じく主犯として死刑確定済み)の冤罪を証明することに重きを置いているため、個人的には期待外れだった。

ただ、本書の司法取引の実態を見ると、真実よりも結果を求める司法への不信感は増すし、ではマスコミは何をやっていたのかと考えると、権力とメディアの黒い関係すら想像してしまう。もちろん、証拠が全て隠滅された状況下で、主犯の手伝いをした男性の証言を得るために便宜を図らざるを得なかった特殊な状況は理解できる。異常な事件には異常な方法で挑むしかないとも言える。

主犯の妻の冤罪に関していうと、本書を読む限り少なくともDVによるマインドコントロール下にあったと考えるのが妥当な気がする。それが死刑を回避する免罪符になるかは別にして、精神的な問題で「本人が本来の本人でない状態」をどう裁くかは非常に繊細で難しい問題。だからこそ、この事件では偏見を徹底的に排除した議論が行われなければならなかったはず。司法にDVや学習性無力感への理解がもっとあれば、主犯の妻は死刑にならなかったのではないかと考えると、死刑否定しない論者の僕の心もぐらつく。

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