この時期の香港は気温が20度前後で過ごしやすい。日本から着てきたジャケットは部屋に置き去りのまま。月曜に会社近くのセブンイレブンに行くと、いつもと同じおばちゃんがいつものように機械のごとく「フェンコーラン!」を連呼していた。同僚の香港人に聞くと、どうやら「歓迎降臨(いらっしゃいませ」”のことらしい。
平日は部屋と職場の往復なので取り立てて何もない。上着が要らないことと、聞こえる言葉が全く理解できない以外は、日本とさして変わりがない。周りが同じアジア人であり、食事が苦痛でないことがストレスなく滞在できる要因だろう。また、狭い地域に密集しながらも他人の振舞いをほとんど気にかけない風土が割と心地よい。日本と比べると、家と公共スペースにいる時の意識の差がずっと少ない気がする。
茶餐廳に行くと、大抵サービスで例湯というスープを出してくれる(左写真の左下)。最初、「例」の意味が分からず香港人に聞いてみたら、例はサイズのことだと教えてくれた。いまいち意味がよくわからず、大中小のどこに当てはまるサイズなのかと聞くと、「それは店によるから一概には言えない」と言われた。相対的な基準に当てはまらない大きさを大きさと呼んでいいのだろうか。謎が謎を呼び、例湯をすすりながら会話は終了。要するに「例のスープ」でいいと思う。この例湯は、味付けに失敗したとしか思えないほど薄味なのだが、飲むうちに滋味深い味が癖になってくる不思議なスープ。香港の食文化の深さが感じられる一品。
夕飯には、たいてい駅中にある持ち帰り専門の寿司屋で海鮮丼を買っている。写真のものが400円弱なので非常にお財布に優しい。味も悪くないので仕事帰りは大抵ここに吸い込まれてしまう。サーモンが最も市民権を獲得している香港で寿司を食べ続けていると、いずれ寄生虫のアニサキスに体を蝕まれる予感がしなくもない。鮭を食らって虫に食われる食物連鎖の落とし穴。世界的な寿司ブームは、同時に世界的な寄生虫ブームであることを忘れてはならない。