






香港の住居にはベランダが少ない。そのため至る所で洗濯物が首を吊っている。この奇妙な生活感の現れが興味深く、日本だったら盗撮扱いになるだろうと思いながらシャッターを切っている。香港は極めて湿度が高いので、無理にでも外へ出さないと乾かないのだ。乾燥機のかけ方が甘いだけでも家の中では致命傷になることがしばしば。香港での洗濯とは、常に湿気と生乾きとの戦いと言える。

同僚の香港人がお弁当を持参し始めたため、この日はじめてのおつかいならぬはじめてのお昼ご飯。いつもの茶餐廳へ行き、膨大な漢字の一覧から煎叉燒芙蓉蛋飯を指差し注文。そしてアイスミルクティを頼もうと「ドンナイチャ」と流暢な(?)広東語で言った。すると、隣の中年女性が突然英語で話しかけてきた。そして僕が日本人だと分かると、そこから連れと一緒に質問攻め。相当な親日家のようで、彼女たちは食べる前に「イタダキマス」と言っていた。騒々しい店の中での小さな文化交流。いくつか広東語も教えてもらった。残念だったのは、店員が持ってきた飲み物がアイスミルクティではなくアイスレモンティだったこと。そもそも彼女たちが話しかけてきたのは、僕が現地人とは程遠い発音をしていたからだとこの時気付いた。

夜は駅の近くのフードコートで夕飯。台湾料理のブースでかた焼きそばのようなメニュー(魚柳炒麺)を注文した。空いている席に座って、焼けた鉄板を相手にちびちびと戦闘開始。すると、まかない飯を持った中年女性の店員が、僕の前に無愛想に座って魚料理を食べ始めた。香港は相席が当然なので気にせず食べていると、彼女が僕にまくし立てるように何か話してきた。言葉が分からず唖然とした表情をする僕。それでも彼女の勢いは止まらない。僕が眉を寄せて首を傾げ続けていると、ようやく彼女の広東語ラッシュは終わった。一体彼女は僕に何を伝えたかったのだろう。僕に理解されなかった言葉たちは、鉄板からでる湯気とともに消えてなくなってしまった。