積ん読を崩す台湾の朝


この日は二度寝をしてしまい、起きたのは朝7時。やはりホテルが快適だとよく眠れる。
さて、起きたはいいものの特にやることがない。まずは朝食でも食べようと、近くにして唯一の呦囍早午餐というカフェへ向かった。
メニューを眺めると少し高めでどれも量が多そうだったので、比較的安めのブリトーセット(≒850円)を注文した。味は特別どうということもなく普通だったが、店内は人も少なく雰囲気がいい。
こういうお店は料理そのものよりも、ゆっくりできることに価値がある。この日は時間に追われる予定もないので、朝食を食べながらのんびり読書をすることにした。
『アマテラスの暗号』を読んだり、スマホやタブレットに溜まり続けているデジタル積ん読を少しだけ消化。全部読み切るには人生があと何周か必要そう だが、とりあえず前進したことにしておきたい。
大渓の日本家屋を歩く



ホテルに戻って、次はどこへ行こうか考えることにした。そこでふと、お茶を買っていなかったことを思い出した。
調べてみると、大渓には意外なほどお茶屋が少ない。そこで中壢という高鐵線の終点のほうまで足を延ばすことにした。中壢には観光夜市もあるようなので一石二鳥。
部屋を出ると、ホテルのオーナーらしき男性と鉢合わせた。彼は日本語を少し話すことができ、大渓の博物館を勧めてくれた。時間はなくもないので、せっかくなので立ち寄ってみることに。
博物館は大渓老街の外れになり、日本家屋が何棟も並んでいる。建物の多くは小さな博物館として活用されていた。規模は大きくないものの、思った以上に見応えがある。
大渓は日本統治時代、木材産業で発展した街らしい。山々から切り出された木材が集まり、加工や流通が盛んに行われていた。そのため行政施設などを含め、現在も日本家屋や関連施設が数多く残されている。
派手な観光地ではないが、こうした歴史の痕跡を見るのは面白い。統治時代のことを考えると、多少肩身が狭い気持ちになるが、少なくとも大渓にネガティブな雰囲気は感じられなかった。
中壢で牛肉麺を食べる

一通り大渓の文化を浅く広く学んだところで、中壢へ向かうことにした。バス停へ行くと、中壢行きの便は20分間隔ほどで運行されているようで、ほとんど待つことなく乗車できた。
バスに揺られること約40分。到着した中壢駅周辺は、大渓とはかなり雰囲気が違っていた。ホテルや飲食店が多く、人通りもあってなかなか賑やか。
時間はすでに昼前だったので、まずは昼食をとることに。反対側に行くために駅の連絡通路を歩いていると、ホームレスが何人も寝ていた。さらに階段を降りると、今度は気持ちよさそうに眠っている野良犬。のどかだ。


向かったのはGoogleで見つけた 源記牛肉麺 というお店。周辺には気になるお店がいくつもあったが、途中で何度も心が揺れたものの、評判を信じてここに決めた。
注文したのは汁なしの牛肉麺で、麺は平打ち麺を選択(≒1,300円)。ところが、ここで思わぬミスをする。牛肉麺には最初からスープが付いてくることを知らず、別でスープを注文してしまったのだ。
結果、テーブルの上にはスープが2杯並び、むしろスープ定食のような状態(しかも、単品の方は器ががデカい)。店員の男性が何やらその件について説明をしてくれたが、だったら事前に聞いて欲しい。
肝心の牛肉麺は、平打ち麺が輪っか状になっている独特のスタイルだった。ただ、その麺同士がくっつきやすく、思ったほどソースが絡まない。味そのものは良かっただけに、余計に惜しい。普通の麺を選べばよかった…。
翻訳アプリで台湾茶試飲タイム




食後は、お茶を求めて再び駅の反対側へ。歩くこと10分、目的地である禾豊茗茶の看板が見えてきた。
外観はいかにも地元向けという雰囲気で、入口へ行くと扉には鍵が掛かっていた。ガラス越しに軽くノックすると、店主のお爺さんが開けてくれた。
店主は当然日本語は話せないため、会話の大半はスマートフォンを使った筆談。お茶を飲みながら、時々スマホを差し出して文字でやり取りをする光景はなかなかシュールだ。
もちろん翻訳アプリなので誤訳も起きる。その中でも特に印象に残ったのが、「一緒にナンパをするのはどうですか?」という謎の文章だった。一体何の訳だったのか。
自分で選んだものと店主のお勧めで5種類ほど試飲させてもらった。どれもおいしいが、飲み比べているうちにだんだん判断力が怪しくなってくる。
結果、お土産も含めて予算内で収まるよう6種類ほど買った。店主の話によると、今年は 干ばつの影響で良いお茶があまり採れていないらしい。もちろんこれもスマホ越しの会話。
中壢観光夜市という名の道路


お茶を買ったら、あとは夜市に寄って大渓へ戻るだけだ。ところが時間を見ると、まだ2時間近くある。
そこでカフェでも探しながら散歩することにした。歩いているうちに見覚えのある場所へ出たと思ったら、初日にUberを拾おうとして苦戦した老街渓駅だった。
駅前だけあってカフェはたくさんあるが、テイクアウト専門だったり、妙におしゃれだったりで、なかなかちょうどいい店が見つからない。台湾はコンビニにカフェスペースが併設されていることもあって、普通のカフェは成り立ちにくいのかもしれない。
結局、予定より早く中壢観光夜市の近くまで来てしまった。そこで見つけた三圓豆花というお店に入り、時間を潰すことにする。
台湾にいると、なぜかコーヒーより豆花や仙草ゼリーに手が伸びる。注文したのは仙草奶凍という仙草ゼリーにシャーベットが乗ったもの(≒300円)。安定のおいしさで日本でも気軽に食べたい。


時間になったので、中壢観光夜市 へ向かった。ところが到着してみると、何かがおかしい。露店がほとんど出ておらず、交通規制もかかっていない。
──つまり、ただの道路。
念のため通りを端から端まで歩いてみたが、やはり何もない。さらに追い打ちをかけるように、小雨だった天気が本降りになり始めてしまった。


傘は持っていないし、しかも駅までは15分ほど歩かなければならない。急いで引き返したものの、雨脚はどんどん強くなる。
仕方なく飲食店の前に置かれていた段ボールを一枚もらい、それを頭上に掲げながら小走りで駅を目指した。久しぶりの台湾で、まさか段ボール片手にずぶ濡れになるとは…。
駅に着いたら、そのままバス停へ直行。屋根があるので助かったものの、帰宅時間帯と大雨が重なり、バス停は大混雑だった。何度も中国語で話しかけられると、最初は気まずかったが、だんだんイライラに変わってくる。
30分以上待って、ようやく1台のバスがやって来た。「大渓」の文字が救いの神に見えた。
車内はぎゅうぎゅう詰めだったが、大渓へ近づくにつれて少しずつ人が減っていく。ようやく帰れるという安心感とともに、濡れた体も少しずつ乾いてきた。
記憶に残るのはこんな日



大渓に戻ってきたのは夜8時前だった。この街は都市部ではないので、夜になると営業している飲食店が一気に少なくなる。
この時間だともうコンビニしかないか──そんなことを考えながら歩いていると、少し先にまだ明かりがついている弁当屋を発見した。閉店間際だったが、なんとか間に合った。肉がたっぷり乗ったおすすめの弁当を購入する(≒400円)。
弁当を抱えて小走りでホテルへ戻る。部屋に入った瞬間、思わず大きなため息が出た。
振り返れば、この日はなかなか思い通りにいかなかった。夜市は空振りだったし、雨には降られるし、段ボールを頭に載せて走る羽目にもなった。
それでも不思議と妙な達成感がある。
結局、旅行の記憶に残るのは、何もかも順調だった日よりもこういう散々な日なのかもしれない。そんなことを考えながら弁当の蓋を開けると、まだほんのり温かかった。