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これは中国共産党による一人っ子政策の実態を暴いたドキュメンタリー。強制中絶・胎児遺棄・人身売買などショッキングな内容の連発で、ここまで命が軽視される政策が行われていたことに絶句する。毛沢東時代の無茶苦茶な社会実験の結果は知っているつもりだったが、一人っ子政策については全くの無知だった。
その時代に生きた人々は、口を揃えて従うしかなかったと諦めを口にする。家族や家系を重視する中国において、ひとりしか子供を作れないというのは、日本人が想像する以上に絶望的な規制だっただろう。一握りの人間が持つ権力が、10億近い人間の人生を翻弄した事実はあまりに重い。子供は親を選べないのと同じく、庶民は国家を選べないという不条理を痛感する。
しかし、マクロの視点で見た時に、果たしてこの一人っ子政策が失敗だったのかは疑問符が付く。人権はもちろん大切だが、一方で中国という巨大な国家のガバナンスを考えるとこうせざるを得なかったとも思う。「人口戦争」という表現の通り、従来の中国の伝統的な家族感をそのまま尊重し続けたら、飢餓によってより深刻な人権被害が出ていたかもしれない。
このドキュメンタリーは、そもそも中国共産党に批判的な立場をとっているため、このマクロとミクロの比較ができない。そういう意味で、これは監督が非難している共産党のプロパガンダと大差がなく、公平性という点では若干残念だった。それでも、この作品は公開できたこと自体が功績だし、国家権力の恐ろしさや人権問題の難しさについて改めて考えるいいきっかけになる。