ランチの後はフェリーに乗って、エルプフィルハーモニー [Elbphilharmonie Hamburg] に行ってみることにした。フェリーを待っている間の風が冷たく、先輩に防寒対策のマフラーの巻き方を教えてもらった。単に帽子の後頭部部分にマフラーを噛ませて巻くだけなのだが、これが結構効果がある。
フィルハーモニーはアーティスティックな外観に似つかわしくなく、先輩が言うにはいわくつきらしい。なんでも建設費がかさんで工期が大幅に遅れ、ハンブルクの行政を巻き込んでの大騒動になったとか。ここはコンサートホールなのだが、数ユーロを払えば誰でも入場することができる。中にはハンブルクを一望できる展望スペースがあり、コンサート目当てでなくても一応楽しめる。が、展望スペースは窓の外なので、吹きっさらしで長時間いることは不可能。写真を撮ったらすぐさま撤収した。
最後は倉庫街にあるカフェでコーヒーをテイクアウトした。有名店らしく、店内はほぼ満席。頼んだコーヒーはコク・苦味・酸味のバランスがよく、確かにおいしい。もちろん、この寒さでは温かい飲み物は全ておいしいことは言うまでもない。
ハンブルク中央駅に着いて、2日に渡った北ドイツ巡りは終了。夕飯までまだ時間があるので、駅中で魚のフライのサンドウィッチ [Fischbrötchen] とチョコレートを買った。見送りの先輩に別れを告げて電車に乗り込むと、案の定なかなか出発しない。もう慣れっこになっている先輩は気にせず待ってくれたが何とも気まずい。
10分ほどして電車は動き出した。手を振る先輩は窓の外に消え、僕は無事に出発できた安堵とともにサンドウィッチをほおばった。振り返ると本当に密度の濃い2日間だった。それは歩いた量だったかもしれないが、地元に住む先輩がいたことが最も大きい。先輩は個人ガイドもしているので、観光スポットはもちろん歴史や文化にも精通している。ひとり旅も気楽で楽しいが、ひとりゆえに出会わない情報の多さにも気付かされた。先輩がいなければ市庁舎前に掘られたユダヤ人の墓標を知らないままだっただろう。宿だけでなく、2日間も観光に付き合っていただいた先輩には本当に感謝しかない。ありがとうございました。
ハンブルクの感傷とコペンハーゲンへの期待で気持ちよく乗っていると、またもや電車が遅れ始めた。もはやお家芸と割り切って遅延を楽しむ余裕が欲しいところだが、到着が遅れて深夜のコペンハーゲンで路頭に迷うことを考えるとイライラが止まらない。実際、ベルリンからここまで大事な移動は全て遅延していないか。そう思うと、何だか巨悪に立ち向かうような使命感が生まれ、僕はアプリ経由で胴元のDB(ドイツの国鉄)に返金を要求してみることにした。色々回答をして渾身の力で「Submit」をタップする。そうして得られたものは、一定の達成感と変わらぬ焦燥感。
余談。後日、書面にて割引クーポンが自宅に届きました。
約1時間強遅れて、コペンハーゲン中央駅に到着。時間は夜の11時前。ホームは思った以上に明るくて安心したが、凍てつく風は刃のように痛い。エスカレーターで上に上がると、駅は巨大なドーム状になっていて、壁には十字のデンマーク国旗が敬礼するかのように厳かに並んでいた。疲れと緊張と感動がごっちゃになってしまったのか、駅の格調高さに思わず「すげー!」と声を出してしまった。この駅の景観が、DBから受けた全ての負の感情を吹き飛ばしてくれたと言っていいだろう。
ホテルは駅から徒歩で5分ほど。少し奥まったところにあるので若干迷ったが、無事に着くことができた。いわゆるバジェットホテルだが、気さくなスタッフは「デンマークは初めてだって?楽しんでくれよ!」と声をかけてくれた。部屋の狭さとベッドの細さ(過去最高に細い)はともかく、デンマークを楽しめそうな予感にわくわくが止まらない。シャワーを浴びる前に明日はどこに行こうとしばらくスマホをいじっていたら、時間はもう午前2時をまわっていた。