バスでツェレ [Celle] に戻ったら、雨は止んでいた。時間はもう午後1時を過ぎていたので、カフェで腹ごしらえをすることに。シーズンオフなのか、どこも通りは空いていて快適。一方、人がいない分、北ドイツの寒さが身に染みた。
正直なところツェレについての知識がなく、こんなにきれいな旧市街が温存されているとは知らなかった。いわく北ドイツの真珠。先輩からは「ここを知らないでツェレに来る人間がいるのか」と呆れられたが、マイナーなテーマで旅行をしていると往々にしてこの手のピンボケは起こる。
まずはツェレ城。ツェレという都市はニーザーザクセン州に属していて、ハノーファーがその州都になっている。そして、その名前が由来となっているハノーファー家ゆかりの城ということで極めて由緒は正しい。外観は城というより王族の別荘で、きれいに刈られた庭が城に更なる品の良さを添えている。周りは細い水路に囲まれていて、城の名残が感じられた。
ツェレの名物は旧市街の建物。木骨造という木組みの建物で、職人の情熱を宿した温かみとおとぎ話に出てきそうな可愛らしさがある。僕の中で伝統的なヨーロッパの箱庭は圧倒的にプラハなのだが、ここツェレも負けていない。むしろ小さい分、景観の統一感は上かもしれない。
さらに興味深いのは建物にある刻印で、横の柱に建てられた年が書かれている。1,534年と書かれたものもあったが、実に500年前の建物ということになる。日本人の感覚からすれば手間や安全面を考えて、定期的に建て替えた方がよいと考えたくなるが、これが歴史を重んじるヨーロッパの流儀。英語の先生が言っていた「ヨーロッパでは古ければ古いほど住居に価値がある」という説がここドイツで証明された。
一通り旧市街を歩いたら日も傾いてきたので、先輩のお宅があるハンブルク方面に移動することに。正確にはハンブルク手前のブクステフーデ [Buxtehude] という場所で、ニーダーザクセン州の北端にある。所要時間はツェレから約1時間半。ツェレの旧市街も満喫できて、結果的にベルゲン・ベルゼン強制収容所を早めに切り上げたのは正解だった。
ブクステフーデに着いた時にはすでに外は真っ暗。夕食用の食材を買いに近くのスーパーに寄って、先輩のお宅に向かった。夕飯でいただいたのは、グリューンコール [Grünkohl] という北ドイツの家庭料理。ソーセージと燻製の豚肉とみじん切りのケールを煮込んだもので、シンプルな味付けながらとても美味しい。特に初めて食べる燻製の豚肉は塩加減が絶妙だった。ドイツはカリーブルストよりも絶対これを売るべきだと思う。
一日中動き回ってくたくただったので、リビングのソファーに横になったらあっという間に意識がなくなった。ぐっすり眠れたのは良かったが、リビングにいたペットのモルモットは、見知らぬ日本人が堂々寝ていて眠れぬ夜を過ごしたかもしれない。