シリコンバレーの光と闇──Theranos事件の真実
「世界最先端のテクノロジーと巨万の富が集まる場所」
シリコンバレーは、そんな夢と希望の象徴だ。だが、本書を読むと、その 裏側にある闇 が透けて見える。
Theranos──
それは、スティーブ・ジョブズに憧れた 若き女性起業家 が立ち上げた会社。
彼女の夢は、医療版のiPhoneを作ることだった。つまり、携帯型の血液検査キットを開発し、リモートで即時解析できるようにするという構想だ。
これが実現すれば、病院に行かなくても 自宅で血液検査が可能 になり、世界中の医療を革新する可能性があった。だが、これは夢ではなく幻想だった。
──このキットは永遠に完成しなかった。
それにも関わらず、Theranosは数千億円規模のユニコーン企業に成長し、シリコンバレーの 名だたる投資家が次々と騙されることになった。
カリスマ性が生んだ巨大詐欺
Theranosの創業者 エリザベス・ホームズ(Elizabeth Anne Holmes)。
彼女は 極めて優れた詐欺師 だった。ルックスの良さに加え、低音を効かせた彼女の声と医療への情熱は 多くの投資家を魅了し続けた。
そして、彼女の言葉を信じた多くの投資家たちは、いとも簡単に巨額の資金を提供してしまった。
彼らは百戦錬磨のビジネスマンのはずだ。にもかかわらず、信じるに値する人物には驚くほど簡単に騙される人間臭さを持っている。
シリコンバレーですら 「技術の力」ではなく「人間の信頼」で回っている ことを思い知らされた。
内部統制の崩壊──誰も止められなかった暴走
Theranosは、内部からも 不正を指摘できない組織 だった。というのも、経営陣はエリザベスの恋人とシンパの老人たちで固められていた からだ。
法律や規制があったところで、経営陣が一丸となって不正を隠蔽し、誰も止める者がいなければ意味がない。
この事件を知ると、企業のガバナンスに対する不信感が募る と同時に、資本主義自体が砂上の楼閣 のように思えてくる。
勧善懲悪の結末
この話に唯一の救いがあるとすれば、それは 正義を貫いた人々がいたこと だ。
Theranosの嘘を暴いたのは、ひとりの元社員とひとりのジャーナリスト。特に、元社員の若者はTheranosの 大株主の孫 という立場にありながら、会社からの圧力に屈せず不正を告発した。
彼の行動は、個人が世界有数のテック企業を敵に回すという、計り知れない恐怖 を伴うものだったはずだ。それでも彼は、医療従事者としての使命感 から正義を貫いた。
もし自分が彼の立場だったら、会社からの圧力に耐え、不正を告発できるだろうか?
そんなことを考えながら、この 勧善懲悪の結末 に心がすっきりした。
ただし、エリザベス・ホームズの裁判は、コロナ禍の影響で現在延期中(2020年12月時点)。彼女がこの事件の責任をどう取るのか、まだ結末は見えていない。