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廃墟の町、プリピャチへ


ランチのあとは、いよいよ廃墟の町 プリピャチ(Pripyat)へ向かった。この町はチェルノブイリからさらに北、原発事故現場からわずか3kmの至近距離にある。
もともとは原発関係者とその家族のために開発されたモデル都市だったらしいが、1986年の事故で約5万人が一斉に強制退去する運命になってしまった。緑が遠慮なく生い茂る通りには、ところどころソ連の星マークがついた電柱が寂しく立っていた。
廃墟のスポーツセンター







最初に足を踏み入れたのは、公営のスポーツセンター。森の中にぽつんと取り残された建物に入ると、ゴールポストだけが寂しく立つバスケットコートが現れた。
その隣には、干からびて今にも崩れ落ちそうなプール。廃墟というものに入るのはこれが初めてで、不謹慎ながらもまるで映画のセットに迷い込んだような非日常感にぞくぞくしてしまった。
しかし、歩きながら骨組みだけが残った窓や、タイルが剥がれて煤けた壁を目にすると、時の流れの残酷さが心に刺さり、妙にわびしい気持ちになる。
廃墟の中学校と散らばる記憶











次に足を踏み入れたのは、廃墟になった中学校。廊下の窓はすべて外れていて、教室の床には教科書が無造作に散らばっていた。まるで空き巣に荒らされた家のような乱雑さ。
ある教室では、ガスマスクが床一面に転がっていた。あまりに異様な光景に息をのむ。ガイドになぜこれほど荒れているのかと聞いたら、やはり風化だけでなく、空き巣や悪戯のせいも大きいらしい。
ぼろぼろの廊下を歩きながら、かつてこの校舎に通っていた子供たちの姿を想像した。突然放射線の恐怖にさらされ、その後も終わらない苦しみに向き合っている人々のことを思うと、胸の奥がひりひりした。
(続く)