翌日は市内観光。が、市内に出るにはまずローカルバスに乗らなければならない。ウクライナのバスは料金機がなく、運転手への現金払い。しかも、混んでる車内ではほとんどの人が手渡しできないから、導線に立ってしまうと次々他人のお金を後ろから前にパスしなければならない。最初にお金を渡して無言で頷いた、あの若者の目力を一生忘れることはないだろう。
お金のパス回しに忙殺されながらも、どうにか駅前で下車できた。そのまま地下道に下りて薄暗い風景を撮っていたら、突然男性に声を掛けられた。誰かと思ったら制服を着た警察官。どうやら写真撮影はNGらしい。共産主義時代の名残だろうか。単に僕の挙動が不審だった可能性もゼロではない。
まずは市内の中心に行くためにフレシチャーティク駅 [Khreshchatyk] で降りた。階段から地上に出ると、割と閑散とした雰囲気で拍子抜け。出口を間違えたかと思ってうろうろしていると、追悼碑を見つけた。2014年に親露派政権に対する内乱の碑らしい。ロシアとウクライナに限らず、隣国との不仲は世界共通の課題。
緩やかな坂を下ると広場に出た。ここが独立広場だろう。平日なので大賑わいとまではいかないが、そこそこ活気が感じられる人の多さ。着ぐるみや鳩を持った連中が寄ってたかって群がってきたが、全員無視。写真を撮って法外な値段を吹っかけてくるのが目に見えている。
キエフに着いたところで右も左も分からないので、昼食を視野に入れつつ辺りを練り歩き。キエフ中心部は予想以上にきれいで安心した。それでも東欧独特のくたびれた空気はそこはかとなく漂っている。
キエフは中心地のためか観光客向けの高そうな店が多く、ウクライナ料理を掲げる大衆店がない。これはもうケバブしかないと諦めかけていたら、それらしい店を発見。外観からは値段も何も分からないが、ネットのレビューがよいので入ってみることにした。
店の名前はプザタハタ [Puzata Hata]。食堂形式で、トレーを持って欲しい食材を選べる。山ほど選べるので相当迷ったが、餃子とボルシチとサラダを選択。味は十分満足で、値段も500円程度で非常にお手頃。サワークリームたっぷりのボルシチを飲みながら、ここがウクライナ滞在中の栄養源になることが決まった。
お腹が満たされたところで再び散策を開始。近くに大きな駅があったので、そこに向かってみることにした。着いてみて分かったのだが、この駅は昨日降ろされたヤツメウナギの駅だった。ようやくキエフ市内の全体像が見え始めた。ちなみに、駅の近くのマーケットで自由気ままに写真を撮っていたら、店員に1回、警察に1回、計2回の注意を受けた。
キエフ駅から通りをまっすぐ歩いていると、教会の前で人々が祭礼を行っていた。気になって中に入ってみると、緻密な装飾が施された壮麗な内観。これは写真に収めねばとカメラを構えたら、またもや注意を受けた。海外では日本で出来ない経験ができるというが、異国の地で一日に4回も注意を受けるのはいかがなものか。
教会の後は、歩くのが退屈になってきたので近くのカフェに入った。そして、気分転換にコーヒーではなくビールを注文。ハエとの格闘を強いられたのは残念だったが、真っ昼間から飲むビールは世界中どこでも優雅で格別。
(続く)