心地よく目覚めたザグレブの朝。グラスに残ったワインをひと口飲んで、旅の準備を開始。早速カメラを構えて試し撮りをしてみると、妙な違和感を感じた。オートフォーカスにしているのに一向に焦点が合わない。何度電源を入れ直しても変わらない。レンズを取り替えても変わらない。ザグレブの悲劇。水没したカメラで東欧を旅した2年前の悪夢が鮮やかに蘇ってくる。何故、ヨーロッパは僕が写真を撮ることを拒むのか。
どうにか気持ちを切り替えて、まずは中心地であるイェラチッチ広場を目指して徒歩。ザグレブは小さな街なので、真ん中に向かえば間違いない。乗り方の分からない路面電車を目で追っていると、湿り気のある寒風が全身を撫で回してくる。僕は寒さにめげず、時折立ち止まってマニュアル撮影の練習。意外に悪くない。
冷酷無比な冬のヨーロッパにご褒美があるとすれば、それはクリスマス。イェラチッチ広場に近づくと、街全体がささやかにクリスマスの準備を始めていた。まだ午前中なので人も開いている店もまばらだが、逆にそれがザグレブの飾らない日常を表していた。シャボン玉作りにはしゃぐ子供たちを見ていると、ささくれ立っていた心が自然と温まる。
朝から何も食べていないので、お腹を鳴らしながら辺りの露店を物色。予想通り、ホットドックかソーセージを使った料理の店しかない。僕は近くのおじさんが食べていた料理を指差して、野球グローブのようなパンにキャベツとソーセージをどっさり乗せた料理を注文した。味はまずまず。
満腹になったら観光再開。まずはたまたま見つけたZagreb Eyeと呼ばれる展望台に上ってみた。展望台から街を見渡すと、重苦しい空と赤茶色の屋根の群れ。建物の高さがほぼ統一されているから、個々の建物の形は違えど街並みに秩序がある。ずっと眺めていると、東西南北それぞれの面に個性が浮き出てきて面白い。ザグレブは血の繋がった4人の兄弟で成り立っている。そんな想像をしながら、すっかり冷え切った体を温めるため、建物内の喫茶店で熱いカフェオレを飲み干した。
(続く)