気分を切り替えて、満腹のお腹で放浪開始。僕のいる地域はヨーロッパ側の最東端で、海沿いに位置している。漫然と歩きながらトプカプ宮殿のある公園を抜け、途中、海の見えるカフェで一服した。海の向こうに見えるトルコのアジア側をぼうっと眺めていたら、ふと日本に帰りたくなった。
人間の体は不思議なもので、いくら食べても日が沈むとお腹が減る。定休日の薄暗いグランドバザールの界隈を歩いた後、僕は近くにあったレストランに足を踏み入れた。もちろん注文は指差し。しかし、ラム肉であることの確認は怠らなかった。シルクロードの旅以降、僕の胃は羊を求めている。出てきた料理は、ラム肉の旨味とヨーグルの酸味の組み合わせが絶妙だった。
胃は満たされど心は満たされぬまま、男の臭いがこもったドミトリーに戻った。そして、荷物を整理してベッドに寝転ぶと、ドアが開いてほろ酔いのイタリア人が現れた。間もなく強制雑談モードに突入し、僕たちは何故か夜のイスタンブールに繰り出すことに。正直全く外出する気はなかったのだが、情熱がない時は往々にして断る情熱もないもの。
小洒落たバーでビールを飲み干し、僕たち2人は気がつけば怪しげなナイトクラブにいた。薄暗い店内には無数の女の子と怪しげなボーイ。そう、ここは完全に日本で言うキャバクラだった。僕たちはサイドをロシア系の女性で固め、ベリーダンスをするダンサーに札を挟んだ。隣で携帯メールを打つロシア人の女の子に「キリル文字は何が何だか分からない」と言ったら、「あなたたちの文字の方がよっぽど分からないわ」と返された。一理ある。
夜は更けていき、気がつけは時間は深夜1時。RAKIというトルコの酒を飲み続けて僕はのぼせ上がり、隣のイタリア人は徐々に青ざめていった。どうやら頭痛がして気分が悪いらしい。いい区切りなので、僕はスキンヘッドのボーイに会計をお願いした。随分長居をしたし、女性の分の酒もあるから2、3万は覚悟していた。しかし、レシートを見て驚愕。なんと日本円にして約10万。今度は僕が青ざめたのは言うまでもない。絨毯詐欺に続いてのぼったくり。ああ、夢のイスタンブールよ。
払った金額を考えれば親切でも何でもないが、スキンヘッドの店員が僕たちを車で送ってくれることになった。車中、僕はイタリア人の様子を心配しながら、何度となく金は割り勘だと言い聞かせた。やがて車はブルーモスク前に到着し、ベンチで一休み。夜に見るイスラム建築は格別に美しく、しょうもない一日を経験した僕たちとは別次元に存在しているようだった。
うなだれながらドミトリーに戻る日本人とイタリア人。安宿が立ち並ぶ界隈はまだ賑わっていた。部屋に着き、僕はWi-Fiを使ってスマホをチェック。するとメッセージが入っていた。「昨日はごめんね。今どこにいるの?私の部屋にきなさいよ!」とブラジルの友人から。送信時刻は夜8時時過ぎ。僕はスマホを放り投げ、全てを忘れるかのように深い眠りについた。