ブダペストに到着したのは早朝。まず無線がつながる店を探そうと外に出たら、目の前にいきなり「SEX SHOP」の看板。そして、向かいの通りに入ってみると至る所が工事中。道にはゴミが散乱していて、お世辞にもきれいとは言えない。僕はプラハとの違いに面食らってしまった。更に驚いたのはハンガリー人の顔。他の東欧の国の人々と顔の作りが全然違っていた。西欧系7割、アジア系3割でミックスした感じだろうか。ところ変われば顔変わる。
マクドナルドの無線を使って日本の友達に近況報告を済ませて、ホテルへ移動することに。が、地下鉄がまさかの工事中で、代わりにバスで行くことになってしまった。ホテルの最寄りのバス停には5分ほどで到着。ここからは徒歩ですぐのはずなのだが、迷いに迷ってホテル界隈を何周もする羽目になってしまった。ハンガリーの小さなホテルは、大きな建物の一角を間借りするような作りになっていて、外に看板が出ていない。
くたくたになってホテルに着いたら、荷物を預けてすぐさま旅立った。何故なら時間が早いのでそもそもチェックインができない。大抵、部屋が空いていれば入れてくれるのだが、今回はすっぱり断られてしまった。僕は気を取り直して、少し早めの昼食を食べることにした。場所はドナウ川近くの観光客向けのハンガリー料理屋。メニューはグヤージュという名物スープと、なんとも言えないカレー風の料理。東欧の料理は残念ながら冴えない。
ドナウ川にはセーチェーニ鎖橋という橋が架かっている。そして、この橋を渡って川の向こう側に行くと王宮の丘と呼ばれる観光地に着く。途中、行き方を確認するために地図を広げて立ち止まったら、「Can I help you?」と女性の声が聞こえた。驚いて声を方を向くと、口にピアスをあけたショートカットのきれいなお姉さん。突然の出来事に動揺しながら、僕は王宮の丘について質問した。ついでにハンガリーで有名らしい温泉についても聞いてみた。彼女は僕の質問に淡々と答えて、何事もなかったかのように颯爽と去っていった。逆ナンパかと思ったことを心より恥じる。
鎖橋を渡ったら、短いトラムに乗って王宮の丘へ。博物館や美術館や教会などが密集していているここに、ハンガリーの今昔が凝縮されていた。しかし、ハンガリー史にあまり興味がない僕は、惰性で広い敷地を歩くだけ。ただ、高みから臨むドナウ川は優雅で素晴らしかった。途中、漁夫の砦のそばで写真を撮っていたら、またもやショートカットのきれいなお姉さんに声をかけられた。今回こそ逆ナンパかと思ったが、話を聞いたらホームレスへの寄付のお願い。確かにここに来るまでに何人ものホームレスを目撃したから、財布から小額を寄付することにした。
ハンガリーは公共浴場が有名らしい。王宮の丘を堪能した後、先ほどのお姉さんに聞いたルダーシュ温泉に行ってみることにした。もちろん何も持っていないので、タオルのレンタルや水着着用の有無を受付で確認。しかし、受付のおばさんに全く言葉が通じない。しまいに彼女は僕のあらゆる質問にことごとく首を横に振るロボットになってしまった。
数分間の攻防の後、質問をしても埒が明かないと悟った僕は、レンタルがあると信じてチケットを売ってくれと頼んだ。すると、おばちゃんはあっさり売ってくれた。何というお役所対応。先ほどまでの拒絶は何だったのか。ともあれチケットを買えたので、ひとりだけ全裸で入ることになったらどうしようという不安に苛まれながら中へ。着替え室らしき部屋に入ると、隅っこに係員の若者が見えた。これだと思った僕は即座に彼に接触。すると彼は僕の状況を理解して、タオルや水着を全てアレンジしてくれた。最大の難関クリア。大恥をかくかどうかの瀬戸際だっただけに、彼が救世主に見えた。
さて、早速着替えて温泉に入ると、湯気と硫黄の臭いが立ち込める室内の中央に円形の大浴場があった。しかもその浴場にはドームがついていて、まるでテルマロマエ的な世界観。更に驚くべきは男女混浴だったこと。周りは西洋人ばかりでアジア人は完全に僕ひとり。他人を識別できないくらい湯気が立ち込めていたのが幸いだった。ちなみにお湯は非常にぬるく、周りは温水プールのような感じで軽く泳いだり談笑しながら入浴していた。ヨーロッパで温泉につかるのは実に不思議な気分。ただ、システムが外国人には分かりにくい上に、料金が高いからもう二度と行くことはないだろう。
温泉を無事に出ると、小雨が降っていたので小走りでホテルまで。が、濡れそぼってホテルに着いたら、「シャワーが壊れて部屋が使えないから他のホテルを紹介する」と言われてまた移動する羽目になってしまった。絶対、ただの手配ミスに違いない。しかし、新しいホテルは場所が近く、交通の便もよかったので大人しく従うことにした。
徒歩5分で着いた新しいホテル。その目の前にはシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)が妖しくそびえていた。妙にユダヤ人と縁のある今回の旅行。湿った夜にぼんやり輝くシナゴーグを眺めながら、温泉で僕を助けてくれた若者はもしやユダヤ人だったのではとふと思った。