2日目は、まずプラハ本駅に行って夜行列車の手配。次の目的地はチェコの南東に位置するハンガリー。南に行くに従って治安が悪くなるという噂を聞いていたので、窓口で1等の個室を予約した。値段は東京-新大阪間の新幹線代くらいするが、やむを得ない。昏睡強盗に遭うよりは遥かにまし。
チケットの手配が滞りなく終わって安堵した僕は、ご機嫌モードで中心地へ。もう時間は正午を過ぎていたので、店先でいちいちメニューを説明してくれたチェコ料理屋で昼食をとった。食べたのは豚のリブステーキ。どこにもありそうな料理だが、これもチェコの料理らしい。ナイフとフォークだと、骨から肉を剥がすのがとにかく面倒。味はまあまあだったが、付け合わせのたまねぎが泣くほど辛かったので減点。
満腹になった後は、一番有名そうな旧市街広場を目指した。クラクフでも感じたことだが、ここプラハも広場がとてつもなく大きい。欧米人の土地の使い方は、根本的な部分で日本人と異なっている。彼らは街全体を俯瞰し、住む空間と憩う空間を明確に区分けしている。
まだまだ時間があるので、プラハにあるユダヤ人施設を巡ってみることにした。プラハにはいくつもシナゴーグがあり、それらをまとめてひとつのチケットで回れるようになっている。僕は早速チケットを買って、全施設をくまなく訪問。いくつかのシナゴーグは、緻密な装飾が施されていて見応え充分だった。特にスペイン・シナゴーグの内装は豪華絢爛にして繊細、卒倒するほどの美しさだった。撮影禁止だったのが残念。
最も印象に残ったのは旧ユダヤ人墓地。そこはまるで大量のいびつな石が自生しているような不気味な場所。あたりは墓地特有の静けさというより、見捨てられた寂しさで黙りこくっているようだった。説明を読むと、どうやら中世から近代にかけての墓地らしい。墓の雑な置かれ方が、当時のユダヤ人の扱いを物語っているようで悲しい。
シナゴーグ巡りで日もすっかり暮れたので、広場に戻って夕飯。食べたのはプラハハムという400gの肉の塊。肉に目立った味付けはなく、僕はただただ肉塊をプラスチックのフォークで切って胃に詰め込んだ。なんと野生的な晩餐だろう。昼に食べたリブステーキといい、チェコ料理はこと肉に関しては何のひねりもなく単調だと感じた。素材の味を活かしていると考えれば、日本料理に近いと言えなくもない。
街灯の下、かじかんだ手でナイフを動かし続けるも、巨大な肉の塊はなくならなかった。やがて、僕の顎と胃袋が耐え切れずにギブアップを宣言。400gは予想以上に手強かった。残りの肉は、近くでゴミ箱を漁っていたホームレスにあげた。森のような髭を生やしたおじさんは、一礼をして肉の皿を持ってプラハの街に消えて行った。