外に出ると、あたりはロンドンとは一段違う寒さに包まれていた。南に行けば暖かくなると考えた自分の短絡さが恨めしい。
右も左も分からずに歩いていると、通りの角で過剰な笑顔の男女2人に声をかけられた。昨日の件もあり、ポーランド人がフレンドリーだと見極めた僕は笑顔で応対。すると男性が死者は生き返るとか何とか、訳の分からないことをしゃべり出した。ふと女性の方をみるとその手には大量のパンフレット。つまり単なる宗教の勧誘だった。一目見て観光客と分かるアジア人に布教してどうしようというのか。
クラクフは旧市街と呼ばれる一角が丸々観光地で、第二次世界大戦の戦火を免れた古き良きヨーロッパの街並みを堪能できる。日本で言うところの京都や奈良に近い。通りには石造りの重厚な建物が立ち並び、華々しくもどこか厳粛な空気が漂っていた。ただ、ロンドンと何が違うのかと聞かれても、正直よく分からない。
昼食には、ポーランドの庶民フードであるピエロギ(水餃子)と、ジュレックという少し酸味の効いたポタージュスープを食べた。味はまずまず。値段的には、これだけ食べて500円を切っているから満足度は高い。東京超えの物価を誇るロンドンを経験しているからなおさら。
旧市街の通りを進むと大きな広場に出る。そして、そこをさらに進むと旧市街の端にあるヴェヴェル城に着く。ただ、歴史的背景を一切知らない僕は、外観を眺めてそれを淡々と写真に収めるだけ。ポーランドを悪く言う気はさらさらないのだが、ロンドンに1ヶ月以上もいると、いわゆる西欧的な建築物には食指が伸びなくなる。慣れとは恐ろしい。
一通り旧市街を練り歩いたら小腹が空いてきたので、レストラン探しを開始。すると広場を少し入ったところにフードマーケットを見つけた。まだ時間が早いので、それほど混み合っていない。僕はクッションくらいの大きさの丸パンに心を奪われつつ、唯一並びが出来ていた屋台で豚肉とマッシュルームの煮物らしきものを注文した。これが結構なボリュームで、全部胃袋に収めるのに一苦労だった。
ところで、この時期のヨーロッパは日没が早い。食事を終えるとまだ午後5時だというのに辺りが暗くなり始める。この寒さと日照時間の短さは観光客にとっていいことなし。僕は渋々ホテルに戻って、翌日の計画と次の国への行き方を調べることにした。無計画旅行は気楽だが、同時に日々調査と計画に追われるので本当に神経が磨り減る。いくら遠くの国に来ても、パソコンとにらめっこする生活は変わらないという現実。