大船で開催されたゆめ観音アジアフェスティバル。巨大な観音様に見守られながら、様々なアジアの国の舞踏や演奏が行われた。こじんまりした会場の雰囲気はアットホーム。特に興味を引いたのは三味線と尺八。他文化に混じると、日本伝統の楽器が映える。とあるバンドのドラムとギターを率いた尺八の演奏は、尺八が現代の楽器として十分成立することを証明していた。3人の男性による三味線の三重奏は、飾り気のない芯のある音が共鳴し合って、夕暮れ時の会場に華を添えていた。
日が暮れた頃、観音様に至る長い石段の脇に置かれた灯篭に火が灯された。石段の中腹には「みんな元気でありますよう」と書かれた灯篭があった。中からぼんやり照らされたこの言葉は、蝋燭が自らの意思で綴ったかのようだった。わずかな命を与えられた炎が遺した遺書。数時間もすれば蝋燭の祈りは暗闇に埋没し、誰の目にも留まらなくなってしまうだろう。何でもないメッセージに心を惹かれたのは、その短命さからかもしれなかった。帰り際、僕はこの祈りの存在の証明者になるつもりで、同じ祈りを暗い空に向かって小さく唱えた。