小田原に行ってきた。理由は単純に行ったことがないから。城があるし海沿いだし、暇つぶしには最適だろう。さて、遠路はるばる小田原城を訪れると、その城は以前見たことのある城だった。記憶の糸をたぐり寄せても何も出てこなかったが、ここに来たことがあっても別に不思議ではない。僕は天守閣の一番上に登って、中途半端な高さから景色を眺めた。遠くで雷が鋭く光っていた。
小田原城を見た後は、近くの御幸の浜へ。しばらく歩いて道路下の暗いトンネルを抜けると、見たことのある風景が広がった。やはり僕は過去に小田原に来たことがあるようだ。だが、それがいつなのかどうしても思い出せない。時々見舞われる既視感だとしても、2度続けては珍しい。僕はテトラポッドに腰をかけ、誰もいない海を眺めながら過去に問いかけた。しかし、聞こえてくるのはさざなみの音ばかり。僕は気分転換に波打ち際に足を浸した。冷たい波は、足から全身の熱気をやさしく吸い取ってくれた。
しばらく波打ち際で写真を撮っていると、亀が流されてくるのが見えた。その亀を目で追っていると、波に体を預けきっていて、ほとんど瀕死のような状態だった。きっとこの亀は波に飲まれていずれ死んでしまうのだろう。波と亀を無心で眺めていると、何だかこの亀も見たことがあるように思えてきた。生死の淵をさまよいながら波に揺られる亀。こうして地球の始まった日から終わる日まで、ずっと繰り返し波に溺れているような気がした。もしかしたら地球が粉々に崩れ去っても、この亀は変わらず波に流されているのかもしれなかった。未来永劫、波間に揺れる亀。
とうとう波は追い出すかのように亀を砂浜まで押し出した。陸に打ち上げられた置き物のようになった亀。そばには絶えず寄せる波の音。僕は永遠という錯覚から目が覚めた。そして、この亀との出会いは過去にも未来にも絶対ないのだと強く確信した。