ベトナム航空にてハノイに到着。飛行機を出た瞬間に常夏の温度と湿度がお出迎え。ロビーには、ホテルの運転手が僕の名前のプラカードを持って待機していた。ハノイの中心地までは車で1時間ほど。外を眺めると中国の影響を感じさせる建物が多い。
チェックインを済ませたら、汗が引くのを待って散策開始。ホテルを出て東方面に向かうと大きな道路にぶつかった。するとホーチミンで体験したあのバイクの無法地帯が僕の眼前に。いきなり怪我をするわけにはいかないので、地元の人に寄り添ってびくびくしながら道路を横断。
東側は完全に地元の人の生活区域。歩いているとじろじろと見られる。道沿いには様々な店があるのだが、店先でたむろして談笑している人ばかりが目に付いた。これでは営業中かどうかも分からない。活気がある割りにのんびりした人が多い印象。
散策中、何度も道路を渡ったら躊躇なくすいすいと渡れるようになってきた。大事なのはバイクがおさまるのを待つことではなく、勇敢なる一歩を踏み出してバイクに避けさせること。ベトナムではバイクは永遠になくならないし、クラクションの音が鳴り止むこともない。
踵を返して、次は西に向かった。日本の8月に相当する気温に全身から汗が滲みでる。しばらく歩くと大きな湖にぶつかった。ホアンキエム湖という湖で、地元住民の憩いの場所。愛を育むカップルからベンチで読書に耽る外国人まで様々。
夕食はバインミーにしようと思ったのだが、意外とお店が見つからない。ベトナム語が何も分からない上に、街が混沌としているため捜索は難航。結局、ガイドブックに載っているリトルハノイというお店に入った。
バインミーを注文したものの、出てきたのは何故か普通のサンドイッチとポテト。どうやらサンドイッチのメニュー欄から選んでしまった模様。精神薄弱な僕は新たにバインミーを注文する度胸もなく、遠く遥かベトナムの地でロイヤルホスト気分を味わった。
残念な食事の後は、水上人形劇を鑑賞することに。受付が無人だったため、しばらく待っていると中年女性が登場。チケットを買いたいと言うと、ちょっと待ての合図。何かあるのかと待っていると、横の女性とひたすら談笑をしていた。客よりも私語を優先する恐るべき受付。チケットの値段は1等席で約500円。
劇は楽器の演奏と水上の人形劇のいわばミュージカル。民族音楽に特筆すべき点はないが、弦1本の緊張をコントロールして奏でるダンバウという珍しい楽器に興味を惹かれた。劇の内容は言葉が分からないので何とも言えないが、水上をちょこちょこ動く人形は開始10分は見ていて面白い。中盤以降、前の席の西洋人集団が完全に飽きていたのが最も印象的だった。
夜9時にも関わらず、道路を走るバイクの群れは相変わらず途切れることを知らない。昼間と違うのは、バイクの群れがそのライトせいか、現実離れしたある種の神秘性を放っていたこと。僕の視界から消えていったバイクたちはそのままこの世の果てへと消えていき、そうして仏教における地獄のように再びこの世に戻され、何度も何度も同じ道を走らされているようだった。彼らはどこから来てどこへ向かおうとしているのか。そして、僕と彼らを分けたものは一体なんだったのか。ベトナムの騒々しい夜は、何故か僕を思索的にさせた。
ホテルに着き、僕は妙な感傷を洗い流すようにシャワーを浴びた。が、何をどうしても熱いお湯しか出ず、軽い拷問のようなシャワータイム。しかも、風呂を出たら何故か床がびしょ濡れだからやりきれない。原因を探ると何と便器から水漏れ。水周りにベトナムの限界を感じた僕はすっかり現実世界に戻され、テレビの韓流ドラマをぼんやり見ながら眠りに落ちた。