今回の香港出張は仁川経由で移動。トランジットは乗り降りが面倒だが、香港起点で買うととにかくチケットが安い。これを往復往で買うと、東京~大阪の新幹線の往復チケット同じくらいの価格になる。世界の近さとは結局のところ交通費の安さ。
香港ではいつも12時にお昼に出るようにしているが、この日は仕事が終わらず13時になってしまった。大抵の香港人は13時にお昼をとるため、この時間はどのレストランも大盛況。店内では行き場のない料理を持った店員のおばさんが、手当たり次第に聞いてまわっていた。山盛りのチャーハンを食べている僕にも聞いてくる配慮のなさは逆に見習いたい。
尖沙咀の諾士佛台 [Knutsford Terrace] には、小洒落た欧米風のバーが立ち並び、活気に満ちている。この日入ったお店はWildfire。一度来たことがあるらしいが全く記憶にない。人種の坩堝と化した店内には英語が飛び交い、また違った香港が味わえる。
夜が更ければ帰りはタクシー。香港のタクシーは基本的に運転が荒い。運転手によってはカーチェイスさながらのスリリングな体験をさせてくれる。この日の帰りも若い運転手が猛スピードでサービスアパートまで突進。命を激しく揺さぶられながら、シートベルトを着けるか着けないかの判断に迷い続ける数十分。それはまるで安全バーのない絶叫マシーン。降りた時に生きている喜びを感じられるという点は高く評価したい。
仕事終わりの夜、海鮮料理を食べに西貢 [Sai Kung] へ。天気がぐずついていたためか、数年前に来た時ほどの活気がなかった。しかし、お目当ての全記海鮮菜館は初めて訪れた時と変わらぬ客の入り。肉厚なアワビと巨大なシャコとイカの刺身を食べる至福のひと時。これで日本で食べるよりも2倍以上安いから嬉しい。
注文していけすから取り出された生き物たちは数十分であの世行き。僕は茹でエビの頭をもぎながら、皿に盛られた人間がエビに頭をもがれる所を想像した。命という難題。もちろん、それでもエビの皮を剥く指先は鈍らない。
滅多に飲む機会がないので、今回高めの紹興酒を注文。紹興酒には特殊な作法があり、熱湯で2度ほど瓶を温め、インフルエンザで人間が気を失う以上の温度で飲む。そして、お好みで干し梅。適度に温めると、紹興酒の芳醇な香りが引き立ってとてもおいしい。
最終日は恒例の飲茶で暴飲暴食をして、香港出張は終了。出発の朝は8時の飛行機で帰国。今回のフライトは諸事情で人生初のビジネスクラス。座席間隔は広いし、座席は倒し放題だし、食事も豪華。沸々と湧き上がるエコノミークラスに対する優越感。空中の格差社会。
日本に着いて、上野の回転寿司に入った。15時前という中途半端な時間だったため、客は僕と中国人女性の2人だけ。目の前を流れる水気のない寿司をぼうっと眺めていると「カンパチヲクダサイ」「イクラトサバヲクダサイ」と矢次に注文が繰り出された。時代は変わったなと思いつつ、僕はカニ汁をすすった。