午後は念願のアンコールワットに足を踏み入れた。まず、圧倒されたのはその敷地の広さ。そして、その敷地をすっぽり覆う神々しい空。カンボジアの空は、今にも落ちてきそうなほど近くに感じる。アンコールワットには、自然と人工の建築物の調和が生み出す神秘性が宿っていた。パワースポットとはまさにここ。
長い石畳の道を通ってアンコールワットの内部へ。すると、物売りの女の子が「1ドル、1ドル」と言いながら寄ってきた。意味も分からず、親に教えられたとおりに言っているのだろう。暑さ半分、憐れみ半分でその扇子を買ってあげた。
日が暮れる頃、僕たちはプノンバケンの丘へ移動した。緩やかな山道をしばらく登ると遺跡があり、その遺跡の階段を上ると観賞スポットがある。丘はすでに夕日を見にきた多数の観光客で賑わっていた。観光客の群れを見渡すと、中には僧侶もいた。彼らが仲睦ましげに写真を撮り合っている光景は、実に俗っぽい。
美しい夕日を見た後は、6号線沿いの屋台街で食事。BBQ串2本とビールで1.5ドルだから本当に安い。串を頬張りながらふと横を見ると、子供たちが何もせずに僕たちの傍に立っているのに気付いた。すると、ローズが無言で空いたビールの缶を子供たちへ。彼らはこの缶を売って小遣いにしているらしい。
食事が終わりローズとお別れ。カンボジアを愛し、カンボジアに誇りを持つ熱い男だった。日本語がネイティブレベルなので、歴史や政治など濃い話が出来てよかった。ローズと話をして、カンボジアが背負っている暗い歴史を改めて理解した。賑やかな屋台街で空き缶を待つ子供たちの存在が全てを物語る。アンコールワットの衝撃とカンボジアの抱える貧困の光景が、この日僕の頭のまわりをぐるぐる回っていた。