病み上がりでも煎餅は別腹



朝6時に外へ出ると、あたりはまだ真っ暗で、夜の冷え込みがそのまま残っていた。こういう時間帯に頼りになるのは、近くの市場しかない。
昨日も立ち寄ったこの場所で買ったのは 煎餅。上海で食べた、あの総菜系のクレープだ。手に取るとずっしり重く、案の定、食べ終わる頃にはお腹いっぱい。
お腹の具合が悪いのにこれでいいのかと思いつつ、食欲には勝てない。
朝の頤和園、最寄り駅はガラガラ


今日の目的地は、以前から気になっていた 頤和園。清代の皇帝が造営した巨大な離宮庭園で、湖と山を取り込んだスケール感は、北京随一と言われている。
地図で見ると、紫禁城を中央とした場合、その対角線上にあるのでなかなか遠い。電車に揺られること約1時間、最寄りの北宮門駅に到着した。
地上に出ると、周囲は思った以上に殺風景で、人の数も控えめだった。そして毎度のことだが、北京は観光地でも案内表示が驚くほど少なく、どちらに行けばいいのかさっぱり分からない。
北京のホスピタリティ


とりあえず頤和園(と思われる)方向を目指して歩き出す。すると、10分ほどでお決まりの緑と青と赤で彩られた門が見えてきた。
実際の入口はさらに奥らしく、道が二手に分かれていた。そして、この期に及んで案内は相変わらずない。
少し歩いて、ようやくこれは本物だろうという門にたどり着いた。右端が入場ゲートらしく、係員の女性に声をかける。
話を聞くと、どうやら事前予約が必須とのことだった。予約していない旨を伝えると、パスポート情報の入力から手続きまで、すべてその場でやってくれた。超親切。この対応は本当に嬉しかった。
購入したチケットは全施設共通で、料金は50元。日本円にして約1,000円で、この規模に入れると思うと素直に安い。
頤和園、門の迷宮から湖へ




中に入ると、門の先にまた門が現れ、どこへ行けばいいのか全く分からない。雍和宮よりも動線が複雑で、感覚的には巨大なカラクリ屋敷。
いくつか門を抜けてようやく視界が開けると、突然、大きな湖が姿を現した。庭園の中に湖があるという規模ではなく、ダムに迷い込んだような錯覚を覚える。
左右を見渡すと、右手の山の上に巨大な塔がそびえていた。あれが 仏香閣 で、頤和園を象徴する存在だ。ただ、見た限り直接続く道が見当たらないので、まずは反対側の湖沿いを歩くことにした。
十七孔橋に佇む




途中でホットコーヒーを買い、紙カップを握って手を温めながら歩く。しばらく湖沿いを進むと、長い橋が視界に入ってきた。これが 十七孔橋 で、その先には小さな島が浮かんでいる。
橋の上からの景色がとにかくいい。湖と空と山が一体になっていて、気がつくとしばらく何も考えずに眺めていた。
考えてみれば、自然に心を委ねて癒されるような時間は、ここ数年ほとんどなかった気がする。日々、社会の歯車として順応しすぎて、自然という概念そのものを忘れていたのかもしれない。
仏香閣、100段の先の景色









気持ちがすっかり軽くなったところで、来た道を引き返すことにした。案内板の地図を見ると、このまま湖を一周すると1時間以上かかりそう。
しかも、仏香閣は、最初に湖を見た場所からそれほど離れていない。そのため元の場所へ戻り、そのまま塔の方向へ進んだ。
すると、湖沿いに細い道があり、進んでいくと装飾がびっしり施された渡り廊下が現れた。この分かりにくさには西太后のセンスを疑いたくなるが、ここはリゾート施設だし遊び心なのかもしれない。
廊下を抜けた先には人だかりがあった。仏香閣を撮影する人たちの群れで、確かに写真映えするアングルが揃っている。
フルパッケージのチケットを持っている僕は、彼らを横目に門をくぐって中へ。すると合計100段以上はあるであろう階段が現れ、その頂点に仏香閣があった。
一段一段早足で上り、息が上がった頃に仏香閣にたどり着いた。振り返ると、湖を一望できる見事な眺め。さっきまで歩いていた湖畔や橋が、模型のように見えた。
この景色は、きっと当時から大きく変わっていないのだろう。そう思うと 清の時代の人々と時空を超えてシンクロ しているような不思議な気分になる。
(続く)