北京の朝はシャワーで試される

朝起きてまずやることは、頭を起こすためのシャワー。さあ目を覚まそう、と蛇口をひねった瞬間に違和感が走る。
固定式シャワーから出るお湯が、なぜか体ではなく虚空へ一直線。狙いは天井か壁か、とにかく人間に関心がない。
幸い、下に可動式のシャワーもあったので実害はゼロ。とはいえ、水回りに関しては日本に慣れきった身には毎回なかなかのストレスだ。海外では「使えるだけマシ」と思えるかどうかが、旅を楽しめるかの分かれ目だと思う。
お隣のローカル店でお粥を堪能




朝食はホテルで済ませるつもりだった。ところがフロントに聞いてみると、隣のお店で買ったものをそのまま持ってきてくれるだけ らしい。頼む意味、ほぼゼロ。
ということで、外に出てみるとすぐそばに「杭州小篭包」とだけ書かれたローカル食堂があった。一応、少し離れた市場も見たが、どこもイートインがないので結局その食堂に入った。
注文したのは、消化によさそうなピータン入りのお粥と肉まん(≒400円)。香草がしっかり効いたお粥は朝の胃に優しく、小ぶりな肉まんは餡がぎっしりで食べ応え十分だった。
結果、明らかに食べすぎたが後悔はない。むしろ、地元の人々の中国語を聞きながら朝食を楽しめて満足度は高い。
海外ひとり旅の原風景



実は北京は、自分にとって 初めて海外ひとり旅をした思い出の地。だから、今回は新しい場所を訪れる前に思い出の地を再確認したかった。
最初に目指したのは、当時泊まったホテル ニュー オータニ。最寄りの建国門駅で降りた瞬間、当時の記憶が蘇ってきた。思い出すというより、奥深くに眠っていた記憶の引き出しから取り出した感覚に近い。
少し歩くと、ホテル ニュー オータニは当然のようにそこにあった。外観も佇まいも、全く変わっていない。時間が経っているのは自分だけなのかとしんみりする。
さらに驚いたのは、当時行ったマクドナルドとマッサージ屋まで残っていたこと。見た目はすっかり別物だったが、まだあるという事実だけでなんだか胸が熱くなった。
雍和宮へ向かう地下鉄での悲劇
思い出に浸ったところで、次に目指すことにしたのは 雍和宮。地下鉄を乗り継いで向かうだけなのだが、人々は我も我もと乗り降りするのでやたらとぶつかる。
──ある意味、これも変わっていない…。
そんなことを考えながら電車を降りようと思ったら、乗車する女性とぶつかり、手に持っていたスマホがきれいに落ちた。カバー側が地面に落ちたので気にしなったが、あとで見たら 背面にはしっかりとヒビが入っていた。
雍和宮は巨大パワースポット




雍和宮駅を出た瞬間、想像以上の人だかりに包まれた。観光地というより、すでにイベント会場の入口のような熱気。
人々の手元を見ると、小ぶりな赤い飴菓子を食べ歩いている人がやたら多い。日本で言うりんご飴のミニ版だが、正体はサンザシという果物を飴で固めた 糖葫芦(タンフールー)。北京の伝統的なお菓子らしい。
雍和宮は、清代に建てられたチベット仏教寺院で、歴代皇帝とも縁の深い場所だ。北京にありながら漢族文化ど真ん中ではなく、異民族の信仰が色濃く残るのが特徴でもある。
入口は駅側とは反対の南側にあり、これが意外と遠い。人の流れに逆らいながら歩いていると、参拝前から軽い修行を課されている気分になる。
受付でチケットを買って中に入ると、景色は一変する。赤と緑と青の壮麗な建物が奥へ奥へと連なっており、故宮のような壮大な造りに圧倒された。
最奥の寺院では、線香を手にした人々が熱心に礼拝をしていた。土産物屋にまで行列ができている様子を見ると、雍和宮は完全にパワースポットとして定着している ようだ。出自が異民族の施設であろうと、縁起がいいと認知されれば関係ないのだろう。
胡同を抜けて鼓楼でランチ





雍和宮を出たあとは、そのまま歩いて 北京鼓楼 へ向かうことにした。元代に造られ、太鼓で時刻を知らせていた施設で、今では北京の歴史的ランドマークになったいる。
歩いていると 国子監街 をという通りに差し掛かった。いわゆる 胡同 エリアで、ノスタルジックな石造りの建物が続く。そんな昔の街並みに溶け込むように、お洒落なカフェが点在しているのが面白い。
鼓楼が近づくにつれて、街は一気に観光地モードに切り替わる。雑多な店がひしめき、ちょうどいいのでこの辺でランチを取ることにした。
一応体調を考え、辛いものと脂っこいものは避けたい。そこで炸醤麺推しの、いかにも大衆的な 刘一手汤包馆 というお店に入った。
注文したのはお勧めの炸醤麺と饂飩。ただし中国で言う饂飩は、日本のそれではなく、スープに入った水餃子を言う。
炸醤麺がまさかの熱盛りだったのには驚いたが、味は文句なし。お腹の具合を考えると八分目にすべきだったが、箸が止まらず結局きれいに完食してしまった。
北京鼓楼、映えの聖地





鼓楼周辺はとにかく人が多く、しかも若い子だらけ。どうやら鼓楼を背景に写真を撮るのが名物らしく、あちこちで女子たちが撮影会を開いている。中華服のコスプレ姿もちらほらいた。
鼓楼の北側に進むと、鐘楼 が建っているエリアに出る。こちらは目の前が広場になっていて、少し空気が緩む。
広場では家族連れが 踢毽子(ティージェンズ)という羽根蹴り遊びに興じていた。かかとで正確に羽根を操る技術が異様に高く、思わず立ち止まって見入ってしまった。やってみたい。
だがここで、お腹の様子が怪しくなってきた。無理は禁物ということで、鼓楼大街駅からホテルへ戻ることにした。駅までの通りは典型的な観光地の商店街で、人が多くてなかなか前に進めない。
ホテルに戻ったら、お腹の薬を飲み、少し疲れたので横になるつもりでベッドに寝転ぶ。夜6時になったら王府井に行こうと、律儀に目覚ましもセットした。
ところが、目覚めたらなんと朝の6時。病み上がりでいきなり歩き過ぎたか、まさかの北京で12時間も爆睡してしまった。