ダヤク族について考える朝




疲れが勝ったのか、夜中に一度も目を覚ますことなく朝を迎えた。ロングハウスの入り口に腰を下ろして外を眺めると、心の中のノイズがスッと収まるような精神的デトックス効果がある。
足元に擦り寄ってくる子猫を撫でていたら、朝食に呼ばれた。メニューは卵焼きととうもろこしの揚げ物。前日同様、手で食べたら、なんだか背徳感が快楽に変わってきた気がする。
出発前に家の人たちと記念撮影をして別れた。のんびり慎ましい暮らしぶりに、かつて抱いていた「首狩り族」というステレオタイプは崩れ、自分の浅い想像力を反省する。
ただ、20世紀末――いや、スハルト政権崩壊時には一時的に首狩りが復活したのも事実 で、その歴史の影は今もこの地域に横たわっている。この二面性をどう理解したらいいのだろうか。
ともあれ、なんでもない1泊2日だったが、得られたものは多かった。僕たちのものとは全く違う、彼らの生活や文化に触れて、社会とは何か、生きるとは何かを考えさせられた。



焼き魚でローカライズ宣言
4時間かけてパランカラヤに戻ると、ガイドと一緒に遅めのランチへ。店先では炭火で豪快に魚を焼いていたが、これはインドネシア名物の Ikan Bakar(イカンバカール)というらしい。
これまでインドネシア料理は正直ハズレが多かったが、この焼き魚は別格。酸味の効いた香辛料サンバルとの組み合わせが絶妙で、橋(手)が止まらない。気づけば手で食べるのも板についてきて、自分が着実にローカライズされつつあるのを実感した。
食後、ガイドと話してみると彼は大学生で、これから英語を学びに他大学へ行く予定だという。将来は旅行会社をやりたいのかと聞くと、少し照れくさそうに笑ったのが印象的だった。
オランウータンの保護地区へ


ランチの後は、すぐ近くのオランウータン鑑賞スポットへ。
到着したのは湖のような広い川で、晴れ渡る空と水面のきらめ川が織りなす景色は、控えめに言っても絶景。正直、もうこれだけで満足してしまいそうだった。
しかし、この地域にはもっと大切な役割がある。乱獲によって絶滅の危機に瀕しているオランウータンを保護する場所なのだ。静かな川の向こうで、森の賢者たちがひっそりと未来へ命をつなごうとしていた。
孤独を愛する森の賢者



ボートに揺られてしばらく進むと、船頭が静かにエンジンを落とした。岸に目をやると、
そこには何匹ものオランウータンがいる!
正直、この鑑賞はツアーの付録くらいに思っていたので、自分がオランウータンを見てこんなに感動するとは思ってもみなかった。人間と似たような姿形の動物が、バナナを頬張りながら湖畔を歩き、木に登る姿はコミカルなのにどこか神秘的だ。
ガイドによれば、オランウータンは孤独を愛し、多くは単独か家族単位で暮らすという。そう聞くと妙に親近感が湧き、この森の賢者を守るために、自分に何ができることはないかと考えずにはいられなかった。
カハヤン橋で黄昏れる


ホテルに着くと、ガイドに少しだけチップを渡して別れを告げた。息子と言ってもいいくらいの年齢なので、つい「若いうちに勉強を頑張って」と親目線のアドバイスまでしてしまった。
ひと息ついた後は、近くの観光名所である カハヤン橋(Kahayan Bridge)へ。幅広のカハヤン川にかかるその橋は、高層ビルのない景色の中で凛とした存在感を放っていた。
入り口には屋台が並び、食事や休憩を楽しむ人もちらほら。どうやらここは、市民の憩いの場でもあるようだ。
旅の締めは丸亀製麺

橋から戻るとちょうど夕食時。今から遠出する気力もなく、ホテル隣接のショッピングモールで済ませることにした。
選んだのは丸亀製麺。昼のIkan Bakarはおいしかったが、ここらで日本食が恋しくなってきたのだ。
カウンターで冷やし牛肉うどんとちくわ天を注文(≒700円)。日本のお店で英語注文するのはムズムズするが、味はほぼ日本と同じで安心。天ぷらはややクリスピーで、この辺はインドネシア仕様だろう。
部屋に戻って、写真と動画を眺めつつダヤク族ツアーをにやにやしながら振り返る。ツアーとはいえ、一部族のリアルな生活を体験するというのは、旅に新しい視点を加えてくれた。次は他の少数民族の暮らしも覗いてみたいな。