ダヤク族ツアーの朝は大雨


この日は楽しみにしていたホテルの朝食ブッフェから始まったが、外はまさかの大雨。ダヤク族ツアーの滑り出しにいきなり不安がよぎる。
それはそれとして、ビュッフェであれこれつまんでフルーツと熱いコーヒーを頂いた。ネットで調べたたら、朝方は夜との温度差で一時的に雨が降ることが多いらしい。
ダヤク族への道と、あの蒼い空

ホテルをチェックアウトしロビーで待っていると、サファリハット姿の若者が声をかけてきた。彼がこのツアーの地元ガイドで、名前はグリースと言った。
彼の案内で車に乗り込み、ひたすら北西へ。両脇に熱帯の木々が広がる道を進むうち、未舗装の道や水たまりが現れて、まるでアトラクションに乗っている気分。
車内では、お互いを知るために最初は色々会話をするも、しばらくしたら沈黙モード。なぜなら、村まで4時間もある長旅なのだ。
ちなみに、移動中の沈黙を埋めるのはドライバーセレクトのBGM。そして、時折流れる日本語の曲にふと耳が止まる。
特に印象的だったのが、「あおい、あおい、あの空〜」という歌詞の曲。妙に耳に残るそのメロディ、後で調べたらいきものがかりの曲だった。
手動トイレは意外と合理的?


道中2時間半ほど走ったところで、ようやくコンビニ休憩。小さな町の片隅でトイレを拝借した。
中に入ると、イスラム圏に多い和式に近いスタイルのトイレだった。特筆すべきは 水を流すのが手動という点。
水洗に慣れた人には不便に映るかもしれない。だが、自分で好きなだけ水をかけられるというのは、限られた範囲しか水を使えないトイレよりも、ある意味ではずっと清潔で理にかなっていると思う。
ダヤク族の村に到着!

うたた寝の最中、ガイドの声で目を覚ました。どうやらダヤク族の村に到着したらしい。
車は木造の家々が並ぶ砂利道をゆっくりと進む。初めての地で注目されるかと思いきや、住民たちはこちらに特に関心を示すでもなく、極々自然体だった。
ふと右手を見ると、住居の裏には茶色く濁った川。驚いたのは、その川で子どもたちが楽しげに泳いでいたこと。
泊めてとらうのは Betang Toyoi という名で、訳すならトヨイ家の長屋(以下、ロングハウス)。まさにその名の通り、伝統的な木造長屋で、文化財にも登録されている。
ちなみにこの地域に暮らすのは、ダヤク族の中でもマラホイ族と言うらしい。ひと口にダヤクといっても、エリアによって文化も言語もまるで違うのだという。
ダヤク族の理想と現実



ドキドキしながらロングハウスに足を踏み入れると、まず目に入ったのはご先祖様の写真。それはまさに部族のルーツを感じさせるものだった。
一方、僕が会った住民たちは、Tシャツに短パンといったごく普通のラフな服装 だった。当然といえば当然なのだが、どこかで「原始的なもの」を期待していた自分に気づき、少しだけ肩すかしをくらったのも事実。
長屋の中を案内されて驚いたのは、自分用の個室があること。長屋だからてっきり仕切りなしの雑魚寝スタイルだと思い込んでいた。
しかも、蚊帳も付いていて虫よけ対策もバッチリ。ただし、壁の高さは背の高い人なら余裕で顔を出せそうなレベルで、音に関するプライバシーはないに等しい構造だった。
祝福の儀式と首狩りの記憶

荷物を部屋に置いたら、家主の女性による Tapung Tawarという浄化と祝福の儀式 が始まった。
まずは水を体に塗られ、次に頭にお米を振りかけられる。そして、最後には手作りのビーズブレスレットを手首につけてもらった。
これによって精霊の加護が宿るのだという。彼らが信じるのは、Kaharingan(カハリンガン)という伝統の精霊信仰。目に見えない世界への敬意が、日常に溶け込んでいた。
儀式の後は、この広い家を歩いてまわった。室内の真っ黒な木は鉄木(アイアンウッド)で、今ではコスト高でこの木を使った家は建てられていないらしい。
もうひとつ家の構造で気になったのは、床と地面の間に広がる広い空間。そこで犬を飼っていたが、ガイドに聞くと「首狩りから守るためだよ」とニヤリ。
部族間の争いを象徴的に言ったのだと思うが、確かに階段を外してしまえば、お城のお堀や返しと同じく強力な防御となる。
(続く)