雨の砂漠、静かな朝の出発


たっぷり眠った翌朝、空模様はあいにくの小雨。朝食を終えたら、まだ真っ暗な砂漠を歩いて、ラクダの元へ向かう。ツアーメンバーの口数も少なく、このままどこかに拉致でもされそうな雰囲気。
ようやく空がうっすらと明るくなってきたのは、ラクダの乗り始めてから。しかし、雨はやむ気配もなく、のんびり進むラクダのテンポでは自分から雨を浴びている感覚。
昨日のキャメルライドで十分に砂漠を堪能した身としては、正直キャンセルしてもよかったかもしれない。
サハラ砂漠に別れを告げる



散々な雨のキャメルライドを終え、名残惜しくもサハラ砂漠とお別れのとき。たった一泊二日とは思えないほど、刺激的で非現実的な体験だった。
ここからは遥か北の フェズ(Fez)へ移動。このツアーは本来マラケシュに戻るのが基本ルートなのだが、全員フェズ行きを選んでいた。
昼食の場では香港ガールズと再び同席。朝見かけなかったと思ったら、なんとひとりが スマホを紛失 してしまい、ラクダどころではなかったらしい(結局、見つかったとのこと)。
ちなみに、ここでトイレに行ったときの話。入口にチップおばさんが座っていて、小銭が無いと伝えたら、あからさまにさげずんだ顔をされた。
何だか癪なので、わざわざワゴンに戻ってチップを渡したら、今度は にんまり笑顔で「メルシー」。この現金さ、ある意味プロの対応と言わざるを得ない…。
最後の観光はサル公園…だが

フェズへ向かう途中、最後に立ち寄ったのはサルがいる公園(Monkey Forest)。
だが、もともとサルは好きではないし、到着早々、餌を売りつけられてテンションだだ下がり。すぐにワゴンに引きこもって、窓からサルを眺めた。
迷路都市フェズに到着!



昼食後、5時間かけてようやくフェズに到着。降りる前に何人かと連絡先を交換して、つたない英語で別れを告げた。
たまたまホテルが近かった香港ガールズ一緒に降りたのだが、僕たちの懸念はチップを渡すかどうか。一応相応の金額を用意していたが、特に要求されることもなく握手をしてのお別れになった。
ちなみに香港ガールズとは方向が違ったため、時間が合えばまたご飯でも、と軽く約束してそれぞれのホテルへ向かった。
モロッコ最古の王都フェズは、世界遺産にも登録された 迷路のような旧市街 で知られている。ホテルももそのど真ん中。Googleマップ片手に雑踏をかき分けて歩いていると、ふと気づいた。
マップにある道が、実際には…ない!
そんなまさかと迂回しながら進み続け、ようやく旧市街の入り口に到着。
そこにはサハラの静寂とは対照的な、喧騒と熱気が広がっていた。人でごった返す通り、びっしりと並ぶ商店、遠くの丘には建物が生い茂るように密集していた。
迷宮フェズ、洗礼のスタート




さて、いよいよ旧市街に突入。噂に違わず、高い石壁に囲まれた路地はまさに迷宮。
あっという間に方向感覚を失い、キョロキョロしていたら近くの子供に笑われる始末。フェズの第一印象、正直あまり良くない。
地図と感覚を頼りに進んでいくと、突然キャップ姿の若者にと呼び止められた。これは詐欺か客引きかとスルーして進むと、なんと追いかけてくる。
若干ビビりながら振り返ると、「そっちにはホテルはない、こっちだよ!」と一言。結局、ただの親切な人だった。
しかし、案内された先はどんどん細くなり、人目もまばらに。工事中の作業員にも心配されつつ進むこと数分、ようやく目的の場所に到着したが…
──これが本当にホテル?
と疑いたくなる外観。人ひとり通れる狭さに、小さな看板がおまけのように着いていた。
ドアの先は別世界、そして悪夢のはじまり



恐る恐る細い通路のドアを開けると、そこにはまさかの別世界。豪華なモザイクの壁と吹き抜けがあり、まるで宮殿のような美しさだった。
すぐに白人系のスタッフが爽やかな笑顔で出迎えてくれて、歓迎のミントティーを出してくれた。この瞬間までは、間違いなく最高のチェックインだった。
ところが、奥から登場したオーナーがまさかの一言。
「申し訳ないのですが、システムトラブルでお客様の予約が取れておらず、本日のみ満室となっております。」
怒るよりも先に、思考が停止。ミントティー片手に固まるしかなかった。その後、屋上のレストランに案内され、今まさに 代わりのホテルを手配中 だと説明された。
──待つこと15分…
オーナーから すぐ隣のホテルに部屋が確保できた と知らされ、ひとまず一安心。するとオーナーが「時間も遅いし、ディナーを召し上がりませんか?」と申し出てくれた。
せめてもの罪滅ぼしなのだろう、ありがたく快諾した。こうして波乱含みのフェズの夜が、少しだけ優しい終わりを迎えた(ようにこの時は思った)。
レストランでのひとり飯と、まさかの“ご請求”




代わりに案内されたホテルは、徒歩30秒で本当にすぐ隣だった。ただ、看板は一切なく、外観はどう見ても個人宅か民泊。風呂とトイレは共同と、明らかにグレードは下がっているが、他に宿泊客がいないようで少しホッとした。
荷物を整理し、さきほどのホテルの屋上レストランへ戻る。内装は変わらず豪華で、すでに欧米系の宿泊客が2組いた。
正直、ひとりで食べるのは気が引けたが、開き直ってミートボールのタジンを注文。味は文句なし、しっかりお腹も満たされた。
しかし、ここからが本当の悪夢。帰る際に請求の話になり、僕がディスカウントを求めると、オーナーとは別のスタッフが わずか数百DHの値引きを自信満々に提示。さらに驚いたのはその後…
まさかの、ディナー代が宿泊費に上乗せされていた!
あのディナーの提案は、まさかの自腹案件。それについても問い質しても、スタッフは怪訝な表情。
文化の違いなのかなんなのか、普通あのタイミングで食事の話を切り出されたら、誰でも お詫びとしてご馳走する と捉えるだろう。しかし、これは日本人の感覚なのかもしれない。
旅の疲れ、美味しい料理、そしてモヤモヤだらけの対応。いろんな感情がぐるぐるかき回される、なんとも後味の悪いフェズ初日となった。