いざ、サハラ砂漠!…と、その前に



トドラ渓谷を後にし、いよいよ旅のクライマックス、サハラ砂漠 へ。とはいえ、ここまでモロッコの壮大な自然を存分に堪能してきたせいか、意外にもワクワク感は控えめだった。
最後の休憩スポットは、ラクダがいるお土産屋さん。無限に広がる土地の一角に囲いをつくってラクダを飼っているのは少々気の毒にも思えるが、彼らの間の抜けた表情はそんな心配を取るに足らないものにしてくれる。
ちなみに、ここでツアーメンバーの何人かが スカーフを買っていた。値段を聞くと、だいたい100-120DH。数日前に買った自分のスカーフもほぼ同じ価格で、ついにボッタクリでなかったことが証明された。
とはいえ、あの怪しいおじいさんはもう遠い記憶の中。彼の赤く充血した目だけが、砂漠の彼方でぼんやりと浮かんでいた。
サハラ砂漠で虹のお出迎え


ワゴンから降り立つと、広がっていたのは青空と砂漠の水平線。快晴かと思えば、時おり雨がぱらつくという、何とも不思議な天気だった。
思えば日本を出てから丸一日以上、マラケシュからも1泊2日。ようやくたどり着いた という達成感がこみ上げてきた。
ガイドの指示で荷物を下ろすと、ツアーメンバーはガイドに頼んでスカーフを頭に巻いてもらっていた。自分でも練習してきたつもりだったが、ここはプロに任せるのが正解。
頭が締め付けられるほどきつくスカーフを巻いてもらい、準備完了。そして、立ち向かうように砂漠を眺めたその瞬間、
──雨が止んだ空に虹が浮かんでいた!
しかも、舞台はサハラ砂漠。こんな奇跡のような組み合わせ、人生で一度見られるかどうかだろう。
我を忘れて自撮りしたら、スカーフぐるぐる巻きの自分が、砂漠の景色に妙に溶け込んでいた。
人生初のキャメルライド



少し歩くと、あちらこちらで ラクダがどっしり座ってお出迎え。気ががつけば、あれよあれよという間に自分の番が回ってきた。おたおたしながら香港ガールズに先を譲って、ラクダの背中へ。
怖いのはラクダが立ち上がる瞬間で、まず前脚が伸び、その次に後ろ脚がぐいっと持ち上がる。するとと、重心が前後に揺れて振り落とされそうになる。
あちこちで小さな悲鳴が飛び交う中、どうにか出発。が、ラクダの揺れに合わせてバランスを取るのに必死 で周りの景色を楽しむ余裕がない。
ガイドからは「リラックスして、遠くを見る!」と何度も声が飛んだ。しかし、いきなり砂漠でラクダに乗せられて、リラックスするのはさすがにハードルが高すぎる。
見えてきた砂漠のテンポ



最初こそラクダの動きに振り回されていたが、徐々に慣れてくると 視界がぐっと広がった。力を抜いて身を任せると、体が自然に揺れを吸収し始める。
このリズムに身を委ねていると、砂漠の時間の流れが肌でわかってくる。このゆったりとしたテンポこそが、ここでの日常なのだ。
10分も進むと、周囲はいつの間にか 完全なる砂と空だけの世界 に変わっていた。頭では想像していても、実際にその中に立つと圧倒的な広がりに息をのむ。
──何もないということが、こんなにも贅沢に感じられるとは…
ここに来るまでの長い道のり、そのすべての苦労が報われる思いがした。
とはいえ、キャメルライドは思いのほか長丁場。10分もすると、のんびりどころか股間が痛くて仕方なかった。
砂の丘でひと息、旅の中継地点へ




キャメルライドから約30分、ようやく宿泊用のテントが見下ろせる小高い丘にたどり着いた。ある意味、この場所が今回の モロッコ旅行の中継地点 と言える。
ラクダから降りると、そこは風が心地よく抜ける開けた場所。ここでめいめい写真を撮ったり、静かに腰を下ろして休憩したり、しばし自由時間を楽しんだ。
そんな穏やかな空気の中、ひときわ目立っていたのが旅の途中で合流したスペイン勢。どこからともなくサンドボードを取り出し、砂丘を滑り降りるという全力アクティビティに突入。
滑るたびに砂まみれになりながら、笑いと絶叫が絶えない。僕には絶対真似できないし、「陽キャ」という言葉は彼らにこそ相応しい。
サハラのテントは想定外の快適さ


テントは、中央の食堂をはさんで左右に2列、きれいに整列していた。指定されたテントの鍵をもらって中へ入ると思った以上に広かった。
ワンルームの倍はあるゆとりの空間に、堂々たるダブルベッド。さらに奥のカーテンを開けると、洗面台・トイレ・シャワーがセパレートで完備されていた。
本当に 砂漠のど真ん中かと疑いたくなるレベルの充実ぶり。下手したら狭いテントで電気もシャワーもない一夜になると思っていたのでホッとした。
砂漠の夜、満ち足りた一日



日が暮れると、薄暗い照明が灯る食堂でビュッフェディナー。温かい食事に舌鼓を打ったあとは、砂漠の空の下でささやかな演奏会を楽しんだ。
打楽器のリズムに身を委ねながら、静かに夜が深まっていく。空は雲に覆われ、期待していた満点の星空は見えなかった が、幻想的なテント前の灯りは印象的だった。
こうして無事に念願のサハラ砂漠に到着し、一日を終えた。
寝る前にGoogleマップを開いて、自分がサハラ砂漠にいることを確認して思わずニヤリ。広々としたベッドに体を沈めながら、非日常をたっぷり詰め込んだ一日がゆっくりと終わっていった。