朝のはじまりと、謎だらけの旅程


夜中の土砂降りを経て、静かな朝がやってきた。眠い目をこすりながら、ホテルの朝食で出てきた 紙のように薄いオムレツ を胃に収めたら、すぐ出発だ。
ちなみにこのツアー、行き先やスケジュールが口頭のみで共有される スタイル。それでもガイドが「Everybody OK!?」と叫べば、なぜか全員が元気に「Yeah!!」と返す のだから不思議。意思疎通というより、もはや儀式に近い。
大地が生んだ巨大な彫刻、トドラ渓谷




バスに揺られて1時間ちょっと、たどり着いたのは トドラ渓谷。
そびえ立つ 高さ150メートル超の岩壁 が、圧倒的な存在感で迎えてくれる。自然という名の彫刻家が何千年もかけて削り出した風景は、言葉を失う迫力だ。
その一方、足元には 静かに流れる小川 があり、涼しい風と穏やかな音が心を癒してくれる。雄大さと静けさが同居する不思議な空間 だった。
ベルベル人の暮らしに触れる




渓谷の絶景を堪能したあとは、近くにある ベルベル人の住宅 を訪れることに。
ベルベル人とは、アラブ化される前から 北アフリカに暮らしてきた先住民族。今もなお、独自の言語や文化を守り続けていて、特に カラフルな衣装や手仕事の工芸品 は観光客にも人気が高い。
ベルベル人の住む集落へ向かうには、田舎の風景画のような細い畦道を バランスを取りながら歩いていく。左右には田んぼの緑、背後には赤茶けた岩山がそびえ、自然が織りなすコントラストに心が洗われる。
ガイドが大げさな笑顔で「この景色は日本人だけ好きなだけ撮ってOK!」と冗談を飛ばすと、周囲から笑いが。日本人の写真好きは、世界でもすっかりお馴染みらしい。
ベルベル人の住居で待っていたのは、まさかの 手作りラグの即席販売会。ずらりと並ぶラグは、どれも緻密で色鮮やかな幾何学模様。見ているだけで心奪われる美しさ だが、かさばるし値も張る。
隣の香港人とお互いの通貨で価格を計算しながら、「高い」「いや安い」と 終わらぬ為替談義。こういうところに、自分の小市民ぶりがよく表れる。
結局、ラグを買ったのはオーストラリア人女性のみ。自分は見るだけで終わったが、鮮やな色彩と丁寧な手仕事の工芸品を見て、モロッカンデザインのルーツはきっとベルベル人にある のだと感じた。
ランチはビュッフェ──タジンからの解放


ベルベル人の住居を後にしたら、再びバスに揺られてランチタイム。今回はありがたいことに ビュッフェ形式 で、ついに タジン地獄から解放 された。
同じツアーの香港人2人は、既にモロッコ料理に限界がきているようで「味が全部一緒」と疲れた表情。確かに 鍋に入っているか否かの違い だけで、基本の味付けは大体同じ。スパイシーでおいしいはおいしいのだが…。
(続く)