
「バビ・ヤール」とは
映画 「ファイナル・アカウント」 の上映場所を探していたとき、ふと目に入った バビ・ヤール という言葉。
どこかで聞いたことがある…と記憶をたどると、ホロコーストやホロドモールについて調べていたときに Wikipedia で目にしたことを思い出した。
バビ・ヤールは、ウクライナの首都キーウにある溪谷。第二次世界大戦中、ドイツ軍がキーウを占領した際に、ここで 3万人以上のユダヤ人が無差別に連行され、銃殺された場所 だ。
ロシア(旧ソ連)による圧政の影が色濃く残るウクライナだが、この場所には ドイツが刻んだ暴力の歴史 も確かに存在している。
淡々と流れる暴力
このドキュメンタリーは、ドイツの侵攻から敗戦、そして ソ連による「解放」 までの流れを、貴重な映像とともに淡々と追いかけている。そして、バビ・ヤールで起きた悲劇を、隠しようのない真実として 白日の下にさらしていく 。
映像には ユダヤ人への暴力、戦死した兵士の姿 など、衝撃的なシーンが数多く登場する。しかし、作品はそれをあえて強調せず、どこまでも 冷静な視点 を貫いている。
このアプローチが成功しているかどうかは、 観る側の歴史的知識に大きく左右される と思う。
個人的には、意図的に説明を省いた演出には少し疑問が残った。本当にこの悲劇を多くの人に知ってもらいたいのなら、最低限の解説は必要だったのではないか。
もちろん、作者があえてこういうスタイルを選んだのであれば、それもひとつの表現だとは思う。とはいえ、 「ファイナル・アカウント」 に続き、 ミニシアター系の作品は独りよがりなものが多いな… という印象が強く残った。
それでも、この手の歴史に興味がある人なら、映像の貴重さが全ての欠点を補ってくれるはず 。そういう意味では、一見の価値は十分にある。
戦争は人の命をただ消費するもの
最後に映し出されたのは、 バビ・ヤールに残された無数の衣服 、そして ソ連軍によって処刑されるドイツ将校の姿 。
この光景を見て思ったのは、 戦争とは、人の命をただ消費するものなのだ ということ。
そして、さらに重くのしかかるのは、この悲劇が 100年も経たずに、今もなお続いている という現実。
戦火とは無縁の日本に生きている僕たちは、きっと ただ運が良かっただけ なのかもしれない——そう思わざるを得なかった。