バビ・ヤール (2022)

映画「ファイナルアカウント」の上映場所を探していた時に「バビ・ヤール」という見覚えのある言葉を見つけた。記憶をひも解くと、ホロコーストやホロドモールを調べていた時にWikipediaで知ったものだった。バビ・ヤールはウクライナの首都キーウにある溪谷で、ドイツ軍にキーウが占領された際にここで3万人以上のユダヤ人が無差別に連行され銃殺された。ロシア(ソ連)には散々な目にあわされているウクライナだが、暴力の歴史にはドイツの影もあった。

バビ・ヤールの事件については、ホロコーストの文脈から逸れるものはなく、無実のユダヤ人がナチスのポリシーに基づき殺されたという以外に説明は不要だ。このドキュメンタリーは、ドイツの侵攻から敗戦によるソ連の解放までを貴重な映像で淡々と追いかけ、バビ・ヤールの悲劇を白日の下にさらしている。

映像には、ユダヤ人への暴力や戦死した戦士など衝撃的なものも満載なのだが、それらを強調することもなく、常に冷めた目線が続く。この試みが成功しているかどうかは、観る側の歴史的知識によるところが大きく、正直なところ意図的に言葉を省いた演出には疑問も残った。本当にこの悲劇を多くの人に知ってもらいたいのなら、必要最低限の説明は必須だったのではないか。作者が意図していることなら言うことはないが、「ファイナルアカウント」に続きミニシアター作品は独りよがりだなという印象が強く残った。ともあれ、この手の歴史に興味がある人であれば、映像の貴重さが全ての欠点を補うものだと思う。

最後のバビ・ヤールに残された被害者の無数の衣服やソ連軍に処刑されるドイツ将校を見ると、戦争とはただただ人の命が消費されるものなのだとため息がでる。そして、この悲劇が100年も経たず現在進行形で続いていることを考えると、平和な日本に住む僕たちはきっとただ単に運がいいだけだと思わざるを得ない。

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