火災旋風──炎の竜巻が避難民を襲った
関東大震災は、ただの大災害ではなかった。それは 被害の内容・規模 において異質 であり、地震後の混乱において異常 だった。
まず 火災の恐ろしさ だ。地震による火災が 木造家屋の多い東京を焼き尽くした ことは容易に想像できる。
しかし、全犠牲者の半数が 火災旋風 で亡くなっていることを知ると、これは単なる火事では済まされない。
火災旋風とは、いわば炎の竜巻 だ。
発生場所は 旧陸軍被服廠跡(現在の横網町公園)。瓦礫や家財道具、避難民が密集したこの場所に、突如として 巨大な炎の渦 が発生した。
そして、人や家具が吹き飛ばされ、一瞬で燃え尽きた。
まるでフィクションのような話だが、被災者の証言は山ほどある。これは 超常現象ではなく、現実に起こった惨劇 だった。
震災後の混乱──集団ヒステリーが生んだ暴力
次に震災後の混乱について。未曽有の天変地異により、町は瓦礫と死体で溢れ、ライフラインも情報も断たれた。
そんな極限状態の中、ある噂が瞬く間に広がる。
「朝鮮人が社会主義者と共謀して暴動を起こしている」
これを信じた人々は、自警団を組織し 無実の朝鮮人を次々に襲撃 した。
また、警察は 社会主義者への弾圧 を始め、最終的には 警察自身が社会主義者を殺害し、闇に葬ろうとした事件 が起きた。
ここで明らかになったのは、単なる 庶民の疑心暗鬼 ではなく、国家権力自体がデマに踊らされていた という事実だ。自警団という名の暴徒を警察が止めるどころか放置したのだから、もはや 国家ぐるみの人権侵害 だったと言える。
朝鮮人・社会主義者──“異端”への恐怖
なぜ、このような暴力が起きたのか。
それは 朝鮮人や社会主義者が“異端”と見なされていたから だ。庶民は彼らの存在を知ってはいたが、彼らが何を考え、何をしたいのかを知らなかった。
つまり、「よく知らないからこそ、恐怖する」 という心理が働いた。
さらに メディアが刷り込んだ虚像 により、彼らへの 偏見や潜在的なアレルギー は、社会の中に確実に根付いていたのだろう。
そして 極限状態で疑心暗鬼が増幅 し、その恐怖が 暴力へと変質した のだ。
関東大震災は、もうひとつのジェノサイドだったのか
関東大震災は、単なる自然災害ではなく、人為的な二次災害として人権侵害も引き起こした。
歴史を振り返ると、「特定の民族や思想を持つ人々を、集合的な悪と見なして虐殺する」という現象は、後のジェノサイド(大量虐殺)に共通している。
関東大震災後の 朝鮮人・社会主義者の弾圧 は、日本で起きた ジェノサイドの萌芽 だったのではないか。
世界のどこででも、極限状態になれば人間は暴力に走る 可能性がある。だからこそ、このような 歴史的事実を記憶し、反省し、啓蒙することが不可欠 だ。
しかし日本では、この出来事が「歴史の1コマ」として埋没してしまっていること が残念でしかたない。