この本はビンラディンを中心とした911同時多発テロをテーマにしたもので、アルカイダひいてイスラム原理主義が狂気に走る背景が描かれている。ストーリーとしては、FBI捜査官とテロリストという構図で進むが、正直なところアメリカ側の事情はどうでもいい。
イスラム教では、千年以上も前の神の教えを慎ましくストイックに実践している。そのため、進歩や自由を是とする資本主義国家との相性がそもそも悪い。原理主義の源流はサイイド・クトゥブに遡るが、彼はアメリカへ遊学した際にアメリカ人の道徳的な退廃(イスラム教徒の彼にはそう映った)に強い嫌悪感を覚え、イスラム教以外を認めなくなった彼の思想がイスラム原理主義に繋がっていく。
ビンラディンのアルカイダをはじめ、ジハード団やイスラム集団など様々な原理主義者が入り混じって登場するが、彼は決して冷酷無比な殺人者ではなく、むしろ神の教えに一途に従って慎ましく生活をし、世の世俗化を憂う純粋な信仰者なのだ。自由主義国家の人間から見ると彼らはテロリストだが、イスラム教を信奉する彼らからすれば、ユダヤ人を優遇し、石油を吸い取って社会構造を一変させてしまったアメリカ(および西欧国家)こそがテロリストだと言える。オウム真理教もそうだが、こういう原理主義的な思想に走る人は、基本的に退廃とか不公平とか権力を許せない心の優しい人が多いと思う。
911のテロ後も、原理主義は形を変えて世界の脅威になり続けている。原理主義が一向になくならないのは、信仰に厚い人が増えているからではなく、社会の混乱や貧困により社会からはみ出た人々の受け皿になっていることが大きい。では、その社会不安の原因を誰が作ったのかと問われれば、金と欲に「進歩」という美名を与えた自由主義国家というのが答えのひとつになるだろう。つまり、原理主義が生まれる原動力が、世の急激な「進歩」に対する反作用と考えれば、この自由な世界で誰一人として無責任でいられる人はいない。