この本を読んで、考古学の面白さがはじめて分かった気がする。考古学というと土を掘って出土品に一喜一憂するイメージだったが、今は衛星画像を使ったり、遺伝子分析をしたり、未知なる古代文明に対してかなり科学的なアプローチができることを知った。
もちろん、そうは言っても、日本の場合は文字による記録がない時代なので基本は中国の史書から実相を探ることになる。本書は「魏志倭人伝」を聖典として邪馬台国というミステリアスな国家の所在を特定していくのだが、その推理にはなかなかの説得力がある。
そして、最終的には数理考古学という統計的な手法で神武天皇以降の実在が怪しい天皇の在位時期を特定しつつ、遺伝子分析で天皇家が中国からの渡来人であることを証明する。果たして、この科学的な証明が妥当かどうかは僕には分からないが、科学の力で歴史の断片をつなぎ合わせるプロセスには上質のミステリー小説を読むようなスリルがあった。
これから更に科学が発達すれば、卑弥呼以前の時代についても詳しく分かるかもしれない。依然畿内説も有力だし、そうなるとそもそも畿内以東に文明はなかったのかという疑問も当然湧く。縄文時代にも「クニ」があって、渡来人に制圧される前に一大文明を築いていたなんてことが分かったら、もう考古学者に転向するしかない。