Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup (2018)

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世界の最先端技術と巨万の富が集まるシリコンバレー。庶民とは無縁の場所だが、この本を通してシリコンバレーの闇を垣間見ることができた。

Theranosは、Steve Jobsに憧れた若き起業家が立ち上げた、携帯型の血液検査キットを開発しようとしていた会社。これが実現すれば自宅で採取した血液のデータがリモートで解析され、即時結果がでる。正に医療版のiPhoneなのだが、実態は彼女の夢物語で、このキットは永遠に開発されず、多くの投資家が騙されることになってしまった。

こんな会社がユニコーン(企業価値が10億ドル以上に達した新興企業)になったこと自体が驚きだが、これは彼女のカリスマ性によるところが大きい。ルックスの良さに加え、低音を効かせた彼女の声と医療への情熱は多くの投資家を魅了した。百戦錬磨のシリコンバレーの人間でも、信用した人物にはいとも簡単に自分の財産を差し出すという事実は非常に人間臭い。確信犯の詐欺師が最もたちが悪いとも言える。

また、会社組織という観点からみれば、内部統制の限界も浮き彫りになる。経営陣は彼女の恋人(!)とシンパの老人で固められていて、誰も彼女の暴走を止めなかった。結局、経営陣が一丸となって不正を行ったら、SOX法も何も機能しない。なんだか資本主義自体が砂上の楼閣に思えてくる。

この欲と虚栄の話の救いは、元社員とジャーナリストの正義の連携により真実が明るみになったこと。大株主の孫である元社員の若者は、会社からの圧力にも屈せず、医療従事者としての使命感から不正を告発した。一個人が世界有数のテック企業を敵に回すことは、全世界から睨まれるような恐怖だろう。自分なら正義感から彼のような行動がとれるだろうか。そんなことを考えながら、勧善懲悪の結末に溜飲はすっかり下がった。社長エリザベス・ホームズの裁判はコロナ禍の影響で延期になり、これから始まるらしい。

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