暗号の歴史とは、いたちごっこである
何となく暗号の歴史を知りたいと思い、Kindleで購入した本。ギリシャ時代の 羊皮紙 から 現代の量子コンピュータ まで、ものすごい時間軸で暗号の進化を紐解いてくれる。
歴史が繰り返すように、暗号の歴史も作成者と解読者のいたちごっこ の連続だった。
驚いたのは、紀元前から暗号は存在するにもかかわらず、根本の仕組み自体は現代までほとんど変わっていない という点。
カエサルが今の時代に蘇ったら、現代の暗号の複雑さに驚く以上に、その変化のなさに腰を抜かすかもしれない。
アラン・チューリングの功績
本書では多くの暗号解読者が登場するが、最も興味を引いたのはイギリスの アラン・チューリング。
彼は 第二次世界大戦時、解読不可能とされたドイツのエニグマ暗号を解読 した。しかも、そのために自分で 巨大な解読装置 まで作ってしまった。(この装置は、後に実質的なコンピューターの原型になる)
この解読がなければ、戦争は長期化し、死者はさらに増えていた かもしれないし、ドイツが戦勝国になっていた可能性すらある。
日本軍の無線がアメリカに筒抜けだったように、戦争における暗号の役割は絶大 であり、歴史を大きく動かす要因だったことが分かる。
不遇のチューリング
こんな輝かしい功績にもかかわらず、チューリングの生涯は 決して幸せとは言えなかった。
それは暗号解読という性質上、功績を公に称えることができなかったこと と、彼が同性愛者だったこと による。(当時のイギリスでは、同性愛は犯罪行為 だった)
その結果、彼は 41歳の若さで命を絶つ ことになる。
現在は名誉が回復され、コンピュータ/AIの父として紙幣の肖像にもなった が、彼の短い人生を考えるとやはり後味が悪い。
ただ、こういう人物が過去に存在して、間接的に自分の人生にも影響を与えている と考えると、それだけでもこの本を読む価値があったと思う。
アラン・チューリングの生涯を描いた映画 「イミテーション・ゲーム」 も、彼の人生を知るには最適な作品だった。