何となく暗号の歴史を知りたいと思いKindleで買ったこの本。ギリシャ時代の羊皮紙から現代の量子コンピュータまで、ものすごい時間軸でその歴史を紐解いてくれる。暗号を理解するのに必要な実例もあって、素人でも分かりやすい。
歴史がそうであるように、暗号の歴史も同じ繰り返しで、暗号作成者と暗号解読者のイタチごっこで発展を遂げてきた。驚いたのは、紀元前から暗号は存在するにも関わらず、根本の暗号の仕組み自体は現代までほとんど変わっていないという点。カエサルがもし現在に蘇ったら、今の暗号の複雑さに驚く以上に、その変化のなさに腰を抜かすのではないだろうか。
様々な暗号解読者が登場する中で、一番興味を引いたのはイギリスのアラン・チューリング。彼は第二次世界大戦時に、解読不可能と言われたドイツのエニグマ暗号を巨大な解読装置を作り上げて解読に成功した人物。この解読が成功しなければ、戦争の長期化により死者はもっと増えていただろうし、何よりドイツが戦勝国になって現代史が一変していた可能性もある。日本軍の無線がアメリカに筒抜けだったように、戦争における暗号の役割はとてつもなく大きい。
こんな輝かしい功績にも関わらず、アラン・チューリングは不遇な生涯を送ることになった。それは暗号解読という性質上、功績を公に称えることができなかったことと、彼が同性愛者だったことによる(当時のイギリスでは、同性愛は犯罪行為だった)。現在は名誉も回復され「コンピュータ/AIの父」として紙幣の肖像にもなったようだが、当人の短い人生を考えたらやはり後味は悪い。ただ、こういう人物が存在して、間接的に自分の人生にも影響を与えていると考えると、それだけでもこの本を読む価値があったと思う。彼の生涯を描いた映画「イミテーション・ゲーム」もよい作品だった。