さよならの朝と、忘れてはいけないこと


あっという間に最終日がやってきた。朝起きて、まずはキメニーさんに挨拶をしようとしたのだが、どこを探しても姿が見当たらない。
出発まではまだ時間はあるしと、リビングのソファーに腰を下ろしたら、間もなくキメニーさんがコーヒーとパンを両手にぶら下げてご帰宅。どうやら今日は土曜日で、開店が遅いお店が多かったらしい。
朝食を食べながら、僕は帰り道に Campaign Against Genocide Museum(直訳:反虐殺運動博物館)に寄る予定だと伝えた。すると彼は場所を把握していて、「国会議事堂の近くだから、警備の兵士に声を掛ければ中に入れるよ」と教えてくれた。
それから、少し迷った末に 思い切ってルワンダ虐殺について尋ねてみた。軽い話題ではないが、もう聞く機会もない。
僕が「ルワンダの人たちはみんな穏やかで親切だったから、あんな悲劇があったなんて信じられない」と言うと、彼は少し黙ってから「(虐殺は)ルワンダが絶対に忘れてはいけないことだ」と言い、ぽつりと「この辺りでも多くの人が亡くなった」と言った。
最後に彼は、「時間があるなら、キガリ虐殺記念館にも行った方がいい」と教えてくれた。僕は、すでに訪れたことはあえて言わずに、ただうなずいた。
朝食の後、リビングでとりとめのない話をしながらくつろいでいるうちに、とうとう出発の時間が近づいてきた。別れの前に写真を撮ろうと提案して、僕たちはテラスへ
僕が「ここから見える景色は最高だ」と言うと、「写真を撮っておいたほうがいいよ」とキメニーさん。僕が毎朝テラスに出て写真を撮っていたことを教えると、僕たちは意気投合のハイタッチをした。
キメニーさんは、毎朝の朝食はもちろん、日本から持ってきた空咳にも気づいて薬を差し出してくれたり、日本について知っていることを色々話してくれたり、ホスピタリティに溢れるナイスガイだった。
もし彼の家に泊まっていなかったら、今回のルワンダ旅はどこか物足りないものになっていたと思う。心温まるおもてなしをしてくれたキメニーさんには心からありがとうを言いたい。
旅の締めくくりに、虐殺を振り返る




旅の最後に訪れたのは、Campaign Against Genocide Museum。ここは現政府が作った博物館で、虐殺終結までの経緯が詳細に展示されている。
そもそも現政権は、元々フツ族過激派の台頭で難民となったツチ族の武装集団(Rwanda Patriotic Front=RPF)で、ポール・カガメの卓抜した軍事的指導力によってルワンダ全土を制して虐殺を終わらせた。ポール・カガメについては独裁的との批判もあるが、私利私欲のない優れた愛国的軍人であり指導者である と思う。
荷物チェックを終え、受付でやや高めの入場料を払って名前を記入すると、スタッフの女性が簡単な説明をしてくれた。展示は想像以上に充実していて、現政権の視点で詳しく構成されているのが印象的。
虐殺の悲惨さだけでなく、いかにして少数精鋭のRPFがルワンダに平和をもたらしかを学ぶのも重要。学生の団体もいて、もしかすると教育の一環としてここへの訪問が義務付けられているのかもしれない。
展示を見終えると、ガイドが屋上へ案内してくれた。ここからはフツ族過激派による攻撃の跡が残った壁が見え、そしてキガリの街が一望できる。
周りが仲間内で楽しく写真を撮り合う中、僕はひとり静かにキガリを背景に自撮り。羞恥はあっても後悔はない。旅は常に自分との対話でもある。
コリアンレストランにて、最後のサプライズ!?



キガリでのラストミールは、やっぱりビュッフェ。博物館の近くに、ちょっとオシャレなコリアンスタイルのビュッフェを提供する店を見つけた。
お値段はこの旅で最高ランク。でもその分、イモ中心ではなく野菜と肉がしっかり揃っていて、味も申し分なし。
せっかくなので、ルワンダの地ビールである Mützig も頼んでみた。すると中年の女性店員が「1本だと量が少ないのでもう1本どうぞ」と、まさかの粋なサービス。
ラッキーと思い、2本目を手に取った瞬間、栓抜きがないことに気づく。再び彼女を呼んで、栓抜きをお願いすると「すみません、2本目は有料でした…」とバツの悪そうな一言。何なんだ、この親切トラップは…。
それでも、美味しい料理とビールに囲まれたこの食事は、キガリでの締めくくりにふさわしいものだった。最後まで忘れられないエピソードをありがとう。
ドーハで感じる格差






普通ならこれで旅行記も完結。しかし、海外旅行の 最大の苦行とも言える帰りのフライト を忘れてはいけない。
帰路はまず、キガリからドーハまでの6時間フライト。そして、深夜に到着して6時間待機。そこから10時間かけて東京に戻る。
ドーハのハマッド国際空港は広くてきれいだが、だからといって6時間が一瞬で過ぎるわけではない。眠る気にもならないし、記念に何か食べようと、さほど空腹でもないのにピザを注文してみた。
これがまさかの激辛&激高。
ピザ一切れで約1,500円。ただの水でも約400円する。日本が貧しくなったのか、カタールが裕福すぎるのか…。
そんなことを考えながら、ガラガラの搭乗ゲートの座席に座って朝まで仮眠を取った。
ルワンダ旅行で考えたこと


明け方、朦朧とする意識の中、ゾンビのようにふらつきながら搭乗ゲートへと向かった。
周囲を見渡せば、そこもまた同じような半死状態の旅人たち。言い方は悪いが、明け方の搭乗ゲート前は難民キャンプに似ている。
ようやく頭が働き始めたのは、機内で出てきた朝食を食べてから。カタール航空の機内食はおいしいと思う。
こうして、ダークツーリズムの聖地とも言えるルワンダの旅は、無事に完結。虐殺が起きたその土地を自分の足で歩けたこと、そして アフリカという未知の世界に触れられたこと は、何ものにも代えがたい体験だった。
一方で、どこへ行っても人間は人間。文化や見た目が違っても、本質的には何も変わらない。人種とは結局、視覚が生む幻想の産物 なのだと、改めて思わされた。
そしてもうひとつ。キメニーさんとも約束したが、次にルワンダを訪れるときは、その豊かな自然を思いきり味わいたい。正直、行く前は2度目はないだろうと思っていたが、あれだけ素晴らしい千の丘の景色を見せられたら、前言を撤回せざるを得ない。