2日目は朝から大雨だった。ルワンダの空はなかなかの気分屋かもしれない。この天気で今日はどうしようかとベットの中で悶々としていると、ドアがコンコンと鳴った。なんとキメニーさんから朝食ができたとの嬉しいお知らせ。朝食なしのプランで予約していたのにありがたい。きっと親切で作ってくれたのだろう。予約プランの間違いでなければ。
気になるメニューは、野菜オムレツとパンにバナナ。初めてのアフリカの家庭料理ということで口に合うか若干心配だったが、塩分控えめのオムレツは優しい味でおいしくいただけた。衝撃だったのが、安牌だと思っていた紅茶が辛いこと。超が付くほど辛い。聞いたら、紅茶は生姜で煮出すのがアフリカ流とのこと。生姜の量が多すぎる。ローズマリー×生姜というお洒落カフェで出てきそうな紅茶だが、お湯で薄めた劇物を飲む感覚に近い。
朝食後、キメニーさんから宿代を払って欲しいと言われた。現地決済ということをすっかり忘れていた僕は、宿代相当の日本円しか持っていないと伝えた。すると、一緒に両替に行こうとキメニーさん。この気軽さ、嫌いじゃない。窓の外を見ると、先ほどの大雨は嘘のように上がっていた。
外でキメニーさんとバイクタクシー(通称モト)を待っている間、制服の子供が多かったので話を振ってみたら、そばを歩いている子供の服を勝手にぐいと掴んで僕に見せてくれた。日本なら下手したら犯罪になりそうな振舞いだが、子供も何とも思っていないようだった。地域社会の密度の濃さとでも言おうか、日本にはない人の距離感に驚いた。
僕たちはそれぞれバイクに二人乗りをして、キガリ中心地に向かった。優しく吹きつける風が気持ちいい。5分ほどで両替所のあるショッピングモールに着き、キメニーさんに言われるがままに荷物チェックを受けた(キガリの大きな建物には基本荷物チェックがある)。両替所では、前の中年男性が強盗したくらい大量の紙幣を預けていたので時間がかかってしまったが、無事にルワンダンフラン(RWF)に換金できた。
宿代を受け取ったキメニーさんとお別れしたところで旅の始まり。まず、最初の目的地であるキガリ虐殺記念館に向かう前に、ビルが立ち並ぶキガリ中心地をぶらぶら歩いてみた。予想はしていたが、アジア人はおろか欧米人すらひとりも見かけない。まるで知らない惑星に不時着したような場違い感。昨日ほど視線にびくつことはないものの、過剰な自意識は止まらない。
中心地から少し離れると、ビルは身を潜め、なだらかな丘陵の景色が広がりはじめる。緑豊かな丘に広がる赤茶色の住宅を見ると、自然と人間との美しい調和を感じる。遠い昔の日本にも、きっとこんな景色が無数に存在していたのだろう。少なくとも今の東京では絶対見ることができない。
記念館に行く前にお昼を食べようと思ったのだが、レストランが見つからない。正確には、外国人が気軽に入れそうなお店がない。途中、道路沿いの半地下な商店街を通ったものの、ローカル色が強過ぎて、赤の他人の家に上がって食事をするくらいハードルが高い。
GoogleMapを見ると、徒歩15分程度の距離にファストフード店があった。ここしかないと判断して、頑張って徒歩。いくら過ごしやすい気候とはいえ、これだけ歩くとさすがに汗が止まらない。ようやく着いたお店の名前はKGL Fast food。中は例によって薄暗いが、店内は清潔だった。頼んだのは、ハンバーガーセットとアフリカンティー。紅茶はミルクティーで、やはり生姜が効いている。が、キメニーさんのよりは数段飲みやすい。ポットになみなみ入っているのもうれしい。
十分なカロリーと水分を摂取したところで、目的の記念館へ足を向けた。GoogleMapを頼りに最短ルートをたどっていると、徐々に木々が増え始め、道は未舗装の赤土になっていった。横には赤土と一体化しているような土壁の住宅が並んでいる。ここは完全にルワンダの住宅街。
こんなところを通っていいのかと内心冷や冷やしながら歩いていると、とある家から笑顔でおじさんが声を掛けてくれた。僕が「Rwanda is beutiful!」と返すと、(多分通じていないが)おじさんは分かったように手を振ってくれた。やはり都市部よりも郊外の方が、人はフレンドリーで優しいのかもしれない。そう思って、テンションも上がって気兼ねなく写真を撮っていたら、数分後、別のおじさんにものすごい剣幕で怒鳴られた。
結論。どの国でも人の家を勝手に撮るのはよくない。