キエフへ向かう朝、空港カフェで一息


キエフ行きのフライトは早朝だったが、ホテルが空港のすぐ隣という立地のおかげで、朝は思った以上に余裕があった。
運よく空港内のカフェもすでに営業していて、せっかくなのでゆっくり朝ごはんタイム。チーズがたっぷり詰め込まれた、やたらボソボソしたパンが妙においしい。とはいえ、噛んでも噛んでも減らないので、とにかく顎が疲れる。
キエフで迷走、冷や汗がにじむ



およそ3時間のフライトで、ウクライナの首都キエフに到着。空港の外に出てみると、見渡す限り道路しかない。移動手段はどうやらバス一択らしい。
バスの乗り方がさっぱり分からず、周り見渡していたら、中年の女性が近づいてきた。きっと親切心で「どこに行きたいの?」と聞いているのだろう。
しかし、無情にもウクライナ語は一言も理解できない。せっかくの厚意に、気まずい笑顔しか返せない異国の人はただ恐縮するのみ。
バスは途中いくつかの停留所に立ち寄りながら、小一時間かけて終点へと到着した。しかし降り立った場所は、ヤツメウナギのように地面から顔を出す排気口があるだけの、とても中心地とは思えない場所。
──これはまさか騙されたか…?
背中にじっとり変な汗がにじむ。バスが走り去っていくのを見送りながら、ぐるりと辺りを見回すと、少し先にそれらしい建物を発見した。
胸をなでおろしながら近づいてみると、どうやらここが鉄道駅らしい。早合点でパニックにならなくて本当によかった。
露店のケバブで一服



駅の中を抜けて通路をしばらく歩くと、反対側へ出ることができた。こちらは一気に景色が変わり、駅前にはマクドナルドがあり、数台のタクシーが客待ちをしている。
ここまで来たらもう何とかなるだろうと、ひとまず深呼吸。
肩の力が抜けた僕は、近くの露店でケバブを買って一服することにした。値段は40フリブニャ(≒150円)。ウクライナは東欧の中でも経済的に厳しい立場にある国で、そのぶん物価も驚くほど安い。
再び迷走、地下鉄が見つからない


さて、地下鉄に乗ればホテルの最寄り駅まで行けるはずだ。そう思って構内を歩き回るものの、どこを探しても地下鉄の入口が見当たらない。
薄暗い通路を行ったり来たりしながら、いくつもの扉を試してみたが、どれもこれも鉄道駅の出入り口ばかり。これはもう埒が明かないと、いったん地上に戻って人の流れを観察することにした。
しばらく眺めていると、一番端に目立たない扉があり、そこからぽつぽつ人が出入りしている。試しに入ってみたら、まさかのそこが地下鉄の入口だった。
もう少し観光客フレンドリーになれないのか、キエフよ。
薄暗い地下鉄の旅


ウクライナの地下鉄は、とにかく薄暗い。さらに車内には電光掲示板もなく、どこを走っているのかを知る手がかりは、一瞬だけ視界をかすめるキリル文字の標識だけ。これがもう、さながらスパイ映画の緊張感。
僕はひと駅ひと駅、慎重に標識を確認して、ようやく目的地の二フキ駅(Nyvky)で下車できた。そこから階段を上って地上に出ると、雨上がりでぬれた地面と、くすんだ街並みが広がっていた。
アムステルダムの華やかさとは真逆の光景。それでも、この飾り気のない空気にこそ旅情を感じる自分がいた。
雨のキエフ、2つの誤算



ここで思いがけない誤算が2つ発覚した。ひとつは、雨が降り始めたのに傘を持っていないこと。もうひとつは、駅からホテルまで徒歩で15分以上かかることだった。
幸い雨は小雨で、しかも途切れ途切れだったので、しばらくは歩いてみることにした。道沿いにはタクシーもちらほら走っているので、最悪飛び乗れば問題ない。
運よくほとんど濡れずにホテルへたどり着けた。中心地から離れた立地のせいか、5泊で2万円を切る破格の安さ。
それなのに部屋は広々として清潔感があり、拍子抜けするほど快適だった。ここなら、5日間の滞在も気持ちよく過ごせそうだ。
ウクライナの住宅街で暮らす気分



もう夕暮れが近い時間だったので、大きな外出は諦めてホテルの周辺を散策することにした。このあたりは完全な住宅街で、アジア人どころか観光客の姿もほとんどない。
だからこそ、通りを歩いたり近所のスーパーで買い物をしているだけで、自分がウクライナ人としてこの街に暮らしているような気分になれる。
この何でもない擬似生活こそ、メジャーな観光地ではなかなか味わえない体験だ。つまり、こういう何でもない時間こそが、旅の醍醐味なのだと思う。