ザグレブからオーストリアのグラーツまで直行のバスが出ている。そのバスを予約していたので、夜明け前に旅支度をしてホテルを出た。まだ真夜中と変わらない街は、霧がかっていて数メートル先さえにじんで見えた。路面電車は既に動き始めていて、もう何人もの人が電車を待っていた。ヨーロッパの朝は早い。
路面電車に乗って目的のAutobusni Kolodvorで下車できたものの、国内外の便を持つバス停は思った以上に広く、目的のバスを探すのは容易ではなかった。
朝6時台の出発にも関わらず、ひとつの空席もないバス。車内は暖房がしっかり効いていて、張り詰めていた緊張の糸はすっかりほぐれた。バスは安くて便利だが、その反面、乗り損ねた時の不安が付きまとって気が抜けない。
パスポートコントロールを経て、4時間ほどでグラーツに到着。天気は快晴で、無事に着いた安堵で叫びたい気持ちになった。しかし、喜んでばかりもいられない。グラーツの知識が皆無な僕には、ここでホテルを探す使命が新たに宿る。
朝から何も食べていないのでまずは食事。しかし、ユーロを持ち合わせていないので、カードが使える駅中のSUBWAYでサンドイッチをほおばった。ホテルまでのチケットは、チケットカウンターのお姉さんにホテル付近の地図を見せたら難なく買うことができた。ちなみに、駅の名前はFeldkirchen-Seiersberg。全く読めない上に、グラーツから3、4駅も離れていた。場所をろくに見ず、レビューだけでホテルを予約したのが大きな過ち。
電車に揺られること15分。Feldkirchen-Seiersberg駅は想像以上に自然豊かだった。駅前には教会のような建物以外に目立った建物はなく、反対側に至っては看板と見渡す限りの草むらだった。あまりののどかさに面食らった僕は、これもまたヨーロッパなのだとしばし佇む。時計の針の進みが、ここでは少しだけゆるやかだった。
ホテルにはレストランが併設されていた。入り口を見つけられなかった僕は、レストランの裏口からお邪魔。中には休憩中のシェフらしき人がいて、彼がオーナーを呼んでくれた。数分待って現れたのは、白髪混じりで端正な顔立ちの紳士。彼はまだチェックインの時間ではないにも関わらず、快く僕を案内してくれた。ログハウス風の瀟洒な部屋で一通り説明を聞いた僕は、オーナーにこの近辺のお勧めを聞いてみた。彼は「グラーツには歴史的な遺産がたくさんある」と前置きした上で「まずはグラーツ駅に向かうといい。そこから様々なところへ行ける」と爽やかに言った。役に立ちそうで、何の役にも立たないアドバイス。荷物を置いた僕は、とりあえずグラーツ駅に戻ることにした。