見慣れない単語、見慣れない建物、そして見慣れない人々。オフシーズンのザグレブには、日本人はおろかアジア人さえも見かけず、ふとタイムスリップして違う時空に迷い込んだような錯覚に陥る。たったひとり取り残されたような、それでいてどこか心地よい感覚。僕が旅に求める本質はきっとこれなのだろう。
そんなことを考えながら、人通りの多そうなUpper Townに向かうことにした。その名が示す通り、緩い上り坂が続く。ここにはオープンテラスのバーやレストランが密集していたが、昼間だからかほとんど開いていなかった。
歩いていると建物の隙間から尖塔が見えた。吸い込まれるように近づくと、それは巨大な教会だった。大聖堂と言ったほうが相応しいだろう。その名を聖マリア被昇天大聖堂。Zagreb Eyeから見えた、圧倒的な存在感で他を凌駕する教会はこれだった。各国、各文化圏で人を魅了する建築物が必ずあるが、ヨーロッパなら大聖堂だろう。僕は息を飲んでザグレブの祈りの拠りどころをしばし見上げた。片方の尖塔が工事中だったのが残念。
教会の後は、反対側の西方面へ歩いてみた。Stone Gateというトンネルのようなところをくぐると、華やいだ雰囲気は薄れ、整然とした格調高いザグレブが顔を覗かせた。そんな中、昔懐かしい8ビットゲームのグラフィックのような、聖マルコ教会のかわいい屋根が印象的。途中、失恋博物館という謎の博物館があったが、奇を衒いすぎている感じがしてそのまま通過。
気が付けば割と高い位置まで登ってきたらしく、ザグレブの街を見下ろせる場所にいた。Zagreb Eyeからの眺望はもちろんだが、ここからの眺めも素晴らしい。沈みゆく夕日が冷たい空気を白く照らして、街全体が雪に包まれているようだった。歩き疲れた僕に与えられたしばしの憩いの時間。近くには首を傾げたくなるくらい短いロープウェイが走っていた。
元々いたLower Townは昼間よりもずっと賑やかさを増し、夕暮れの感傷はすっかり吹き払われた。小腹が減った僕は、マーケットをうろうろしながらソーセージをぐつぐつ煮込む屋台でホットドックを注文。正直、ソーセージはもう食べたくないのだが、気軽に食べれる料理がこれしかないから仕方ない。ひとり旅の限界、ここにあり。
歩き疲れたので路面電車で帰ろうと試みたが、停車駅がすっかり分からなくなり途中下車。迷いに迷って近くにあるパン屋に入って地図を見せたらようやく解決。土地勘のない場所での路面電車やバスは必ず目的地で降りられない。
無事ホテルにたどり着いた僕は、早速写真の写りを確認した。出来は思ったより悪くない。マニュアルフォーカスでもどうにかなるというのは意外な収穫だった。成せば成る。すっかり気分がよくなった僕は早めにベッドに潜りこんだ。何故なら明日は早朝のバスのため朝4時半起きだから。しかし、時差ぼけで全然寝付けない。眠りの世界に誘われるまで、貰ったワインがどんどん減っていく。