何を思ったか富士登山の約束をしてしまったため、予行練習と称して近場の大山に登ってみることにした。電車とバスに揺られて大山の麓に到着した頃には、既に適度な疲労感。果たしてこの山は初心者に登り切れるものなのだろうか。僕は履き古したランニングシューズと一緒に気持ちを奮い立たせた。
登山道の入口は2つに分かれており、僕が選んだのは急勾配の男坂。なるほど、男を試さんばかりの急な石段が延々と続く。木々に覆われ直射日光は避けられるものの、山独特の湿気に包まれ、汗が止まらない。心臓も破裂寸前。
水を被ったかのような汗と、制御装置をなくしたかのような心臓の鼓動。中間地点と思われる阿夫利神社についた時には、もう十分過ぎるほど登山の厳しさを味わっていた。阿夫利神社の中には大山名水と言われるご神水があり、水分をすっかり失った僕はそれをがぶ飲み。これが本物の湧水かどうかは知らないが、常夏の登山者にとっては間違いなくご神水だった。
一服したら再び終わりなき山道の始まり。多少勾配は緩やかになったものの、所々足場が悪く気が抜けない。何度も休みを取りながら、ペットボトルの残量を確認して、干からびはしないだろうかと不安に襲われた。とにかく汗が滝のように流れて止まることを知らない。夏の登山の肝はきっと水分補給。
大いなる自然に包まれながら、遂に山頂に到着。僕はペットボトルの最後のひと口を飲み干した。代え難いこの達成感。少なくとも3時間は歩いただろう。あいにくガスが酷く山頂からは何も見れなかったが、それは少しの問題にもならなかった。不愛想なおじさんから買ったレトルトの豚汁がこの上なくおいしかった。
早速筋肉痛になっている足に活を入れて、一路下山。下りは当然上りほどきつくはなかったが、気を抜くと湿った岩に足を滑らせてしまう。下りには下りの厳しさがある。辛抱強く下りの山道を歩き続けて、無事にケーブルカーの駅に到着したのは夕方。こうして初の登山は怪我なく終わりを迎えることができた。僕は近くにあった温泉宿に入って、登山の汗をすっかり洗い流した。足にできたマメがひとつの成果、と言えるかもしれない。