プラハ本駅に着くと外は生憎の雨だった。とりあえず僕とBenは雨が止むのを願ってバーガーキングで朝食。が、しばらく待っても止む気配がないので、Benは先にホテルに向かうことに。一晩だけの関係だったが(非常に意味深に響く)、色々と話が出来てよかった。後腐れのない旅の出会いは、寂しくも心地よい。
冷め切ったポテトをつまんで小一時間過ごすと雨がようやく止んだ。駅の外にでると湿った冷気で体が縮む。まずはメインストリートまで出ようと地図を見ながら徒歩。すると、中東系の小奇麗な格好の男性に話しかけられた。「今からベルリンに行きたいのだが、100円ほど足りない。もしよければいただけないだろうか?」と彼。突然の素っ頓狂な要望に面食らいつつも、非常に丁寧な姿勢だったので100円相当のコインをあげた。彼は僕に握手を求めて、紳士的な笑顔を浮かべて去って行った。今思うと、これがヨーロッパスタイルの物乞いだった。
30分ほど歩いてホテルに到着。チェックインをすると、パスポートを見た受付の男性が個人的な質問をしてきた。何回も日本に来たことがある親日家らしい。彼に日本でどこが一番好きかと尋ねると「ハママツ!」と満面の笑顔を浮かべた。意外な回答に目が点。どうやら友達が浜松に住んでいるらしい。
部屋に入って一服すると、もう時間はお昼過ぎ。荷物の整理もそぞろに、チェコ料理を求めてホテルを出た。右も左も分からないまま目指したのは、現地人お勧めのチェコ料理屋。プラハの西側を流れるヴルタヴァ川沿いの近辺にそれはあった。少し緊張しながら中に入ると、謎の注文シートを渡され、右往左往しながらカレーのような伝統料理を注文した。変わっているのはご飯の代わりにパンケーキのようなパンをつけて食べる点。しかも肉の上には何故かジャムとレモンが乗っている。恐る恐る肉にジャムを和えて食べてみたら、これが意外に悪くなかった。
食後は街中を散策。プラハの街並みは隅から隅まで中世ヨーロッパ的で、ロンドンのような統一感があって優雅。加えて、人々はフレンドリーだし、どことなく街の雰囲気が温かい。クラクフよりもずっとリラックスして観光できた。これがヨーロッパに慣れてきたことによるのか、チェコ人の気質によるのかは分からない。ただ、ロンドンでチェコ出身の同級生に「プラハの人は親切だから、分からないことがあったら誰に聞いても大丈夫だ」と言われたのをふと思い出した。
当てもなく街を歩いていたらもう夕方。ホテルに帰ろうと思ったが、川沿いのきれいな橋に後ろ髪を引かれてしまった。地図で確認すると、カレル橋というらしい。橋の入り口にそびえる、威厳に満ちた塔が圧倒的な迫力で迫ってくる。塔をくぐると、橋の上は写真を撮る観光客と四つん這いの物乞いでごった返していた。
橋を渡り終えるとマーケットのような通りに出た。ライトアップされた中世的な街並みには、重々しくも品のある美しさが染み込んでいた。ここは観光客向けに作られた場所かもしれないが、それでもヨーロッパの文化が僕たちの文化と根本的に異なっていることを思い知らされる。
標識を見ると、どうやらプラハ城が近くにあるらしい。僕は疲れた足を引きずって散策を続行。近づくに従って人が減っていくので不安だったが、やがてプラハ城らしき入り口に到着した。そして、門をくぐって石畳の道をしばらく歩くと目の前に巨大な聖堂が現れた。あまりの迫力に日本語で絶叫したい衝動に駆られたが、どうにか自制。この建物を見て最初に思ったのは、子供の頃によく遊んだファミコンゲームの「悪魔城ドラキュラ」だった。神聖さと冷酷さが同居するような大聖堂にヨーロッパ文化の結晶を見た気がした。
一日の締めは、たまたま帰りに見つけた中世拷問博物館。その性質上、拷問の歴史は表舞台には現れないが、背徳的な分だけ魅力的なのも事実。しかし、拷問器具以上に印象に残ったのは、貞操帯の説明を声に出して熟読しているカップルだった。