GWの後半戦の初日は、夜行バスで東京に戻って護国寺のチベットフェスへ。チベット文化についてはど素人だが、シンギングボールと呼ばれるチベットの法具(楽器)にかねてより興味があった。実は東京に戻る前日、友人からこのフェスでそのシンギングボールが売っているとの情報を得ていたのだ。夜行バスで目を閉じると耳に響く、シンギングボールの幽玄な残響。
護国寺は池袋から2駅。このお寺はダライラマが仏事を行う際に利用しているらしい。僕は先に来ていた友人と落ち合って護国寺に入った。そして、入るや否やそのこじんまりとしたフェスの規模に愕然とした。会場には飲食の屋台が数店と、縁日のカラオケのやぐらのようなステージがあるだけ。しかも、その数少ない屋台の食べ物は、ほとんどが売り切れか仕込み中。到着後わずか5分で打つ手なし。
唯一の救いは屋内の展示があったこと。壁には高価なチベットの掛け軸が多数飾られており、会場中央には僧侶が床に描かれた曼荼羅に鮮やかな色を付けていた。人が多くてよく見えなかったのだが、後で聞いたら彼らは砂で色付けをしていたらしい。その名を砂曼荼羅。撮影禁止で写真を撮れなかったのが残念。
砂曼荼羅の次の順路は物販エリアに繋がっていた。そこで目に映ったのは、客がシンギングボールを手にとって音を鳴らしている光景。僕は人を押しのけ、茶菓子入れのようなボールを手に取った。そして、チベットの僧侶の実演を凝視しつつ、音を出してみた。叩くのは馬鹿でも出来るが、バチをボールの縁に当て、円を描くように擦って音(浄化音)を出すのが難しい。何はともあれここでシンギングボールを買うことができた。そして、早速瞑想を装いながら外で浄化音を発し続けるチベット密教モードに突入。ただの変人。鐘の響きには、脳を麻痺させるような禁断の中毒性がある。
チベットフェスを後にした僕たちは、このフェスを知らせてくれた友人がやっている下北沢のバーへ。下北沢駅はリニューアルで辺り一面が工事中で、やたらと長いエスカレータが地上に向かって伸びていた。何故こんな地下に駅を移したのだろう。エスカレータに乗っていると、地底の魔境から脱出しているような気分になる。これで混雑が解消される理屈が分からない。大江戸線もそうだが、東京はきっと未来を地下に求めている。
小田急線の踏切があった場所の近くで写真撮影をしていたら、友人がニット帽の男性から声を掛けられた。その直後、驚きと喜びの邂逅。どうやら長らく会っていない先輩で、その人はこの辺りでバーを始めたらしい。滅多に来ない下北で何という奇遇。当然、この時点でハシゴが確定した。
まず行ったのは友人のバー。アジアンテイストなお店で居心地がいい。友人にシンギングボールを見せて、チベットフェスに関する小さなシンポジウムを開催。そして、店内で早速シンギングボールを鳴らしてみた。最初はうまく響かなかったが、何度か鳴らすうちに段々音が様になってきた。解脱は近い。
ほろ酔いで友人のバーを後にした僕たちは、続いて先ほどの先輩のバーへ。こちらはGuerrilla Base Galleryというお店。驚いたことに、このバーは今いたお店の隣の建屋にあった。何という奇縁だろう。これが仏陀の引き合わせだとすると、仏陀はよほど暇に違いない。僕たちは薄暗い店内のカウンタに座り、ビールを飲んで何かを語った。しかし、アルコールに浸潤された僕の脳は、その時の会話を何も記憶していない。全ては酒の御心のままに。