実は4月から京都に転勤。ただ、正真正銘の江戸っ子である僕は、放射能まみれのコンクリートジャングルである東京を忘れない。だから東京のアパートも解約していないし、日々「それ超やばくね?まーじーでー」という腐りきった東京の言葉を復唱している。とは言え、実際は東京での仕事もあるし、夜行バスを使えば片道8,000円で戻れるので、故郷との断絶でもなんでもない。
土曜日の雨を引きずって、危うい空模様の日曜日。転勤後初の週末を続けて家で過ごすのは耐えられない。僕はお天道様のご機嫌を伺って、雨が止んだ隙に素早く外出した。地図を見ると最寄駅は阪急の西院という名の駅。10分ほど歩くと、改札すらない西院駅を見つけた。ここだけ昭和にタイムスリップしたような古ぼけた雰囲気。どうやらこちらは嵐電線(すごい名前だ)の西院駅。僕の乗りたい阪急の西院駅はここからすぐ近くにあった。
阪急京都線の終点、河原町駅で下車。この辺りは東京なら渋谷にあたる繁華街で、大抵の物欲はここで満たせそうな気がする。今日の僕の目的はJET SET Records。買い物と言えばCDかレコードしかない幅の狭さが、誇らしくもあり虚しくもある。途中、鴨川を眺めてカメラを構えていたら、テキサス辺りにいそうな陽気な白人に笑顔を向けられた。彼はきっと雨上がりの肌寒い京都を楽しんでいるに違いない。
JET SET Recordsに到着。店外の激安レコードを乞食のように漁ったが、たいした収穫はなかった。店中でもこれといった発見はなく、しぶしぶ僕は特に欲しくもない激安レコードを購入。不発に終わった買い物の後は、タワーレコードに立ち寄ってから帰ることにした。
河原町駅に戻る途中、雨が降り始めたので、近くのコンビニで傘を買った。会計時、店員の女の子が何か言っていたが、聞きとれなかったので聞き返した。すると、彼女は少し不躾な態度で「すぐに使いますか」と言った。その響きはどこか空虚で、何度も同じ言葉を繰り返すうち、感情がすり減って底をついているようだった。本人は気付いていないだろうが、こういう態度は相手に失礼。ただ、今回の場合、彼女を一方的に責めるつもりはない。何故なら、会計の時、僕はイヤホンを片耳しか外さなかったから。客観的に見てどちらが失礼かは推して知るべし。