香港は音源を売っている場所が少ない。極めて少ない。そんな香港に一縷の望みがあるとすると、それはHMVが数店舗あること。僕はまだ見ぬ香港のHMVを求めて旅立つことにした。
最初に行ったのは九龍湾。駅直結のショッピングモールの2階へ上がったら、少し先にHMVがあるのが見えた。入ってみると、小さい。悲しいほどに小さい。大きめのコンビニくらいの間取りしかない。しかも、商品の半分が映画だった。CDのラインナップは言わずもがな。蝋燭の火はここでひとつ消えた。
次のHMVを求めて紅磡駅 [Hung Hom] へ。ここは繁華街に近い地区なので、九龍湾よりは少しだけ期待が膨らむ。駅を降りると、視界に飛び込んだのは香港らしい雑然とした街並み。その中を勘を頼りに粛々と進み、運よくHMVを見つけられた。店内に入ると、まず見えたのが地下へ続く階段。複数フロアというだけで心臓の鼓動が速くなる。ロールプレイングゲームの隠しダンジョンを見つけたような高揚感。早まる気持ちを抑えるように階段を慎重に下りると、なんとそこには九龍湾より少し多い程度の品揃え。またひとつ、蝋燭の小さな火が消えた。
結局、何の収穫もなく退散。一番の大型店舗である尖沙咀のHMVなら確実に何かあるとわかっていたが、もう夕飯の時間なので帰宅を決意。通りの肉屋に吊るされている鳥たちがほんの少し可哀想に見えた。冴えない日はとことん冴えないもので、帰りの電車が突然止まって20分近く立ち往生。しかも、混みあう電車の中でiPodの充電が切れてしまった。挙句の果てには、部屋に戻ったら専用の充電ケーブルが無くなっている始末。もしかしたら世界のソニーが僕を呼んでいるのかもしれない。後ろ髪を引かれながらも、僕はネットでiPod nanoの値段を調べていた。