高雄から香港に戻ってきたのも束の間、その翌週に日本から友人が来港してきた。海外旅行好きの彼女にとって、初めての香港は相当楽しみらしい。彼女の情熱に圧倒されながら、僕は久しく香港観光をしていない自分に気付いた。いい機会だし、たまには異性と海外旅行気分に浸ってみよう。香港再発見の旅。
最初に行ったのは黄大仙。香港で最も有名な道教の寺院なのだが、実は今まで行ったことがない。地下鉄を降りて地上に出ると、平日にも関わらず地元の人や観光客でにぎわっていた。本堂の前には丸い提灯が何列も連なっていて、他のお寺にはない不思議な雰囲気を醸し出していた。この寺院は住宅街の中にあり、煌びやかなお寺と高層ビルのコントラストが香港ならでは。
女性の海外旅行が買い物とほぼ等式で結ばれるのは周知の事実。彼女のリクエストで僕たちは旺角 [Mong Kok] のランガム・プレイス [Langham Place] へ向かった。小奇麗な近代ビルの中にはアパレルショップが螺旋状に詰め込まれていて、女性ならきっと楽しいに違いない。コンバースのスニーカー以外に欲しい物がない僕は犬のように付いていくだけ。
旺角の有名なショッピング街と言えば、女人街 [Ladies’ Market]。ここには胡散臭い露店が一駅分ほど整然と隙間なく並んでいて、初めての人は通るだけで楽しい。売っている物はジャンク品や偽物がほとんどだが、客は客で当然それを承知で買っている。彼女はここでいくつかお土産と靴を買い、僕は念願の毛沢東グッズを買った。
女人街を往復した後は、休憩を兼ねて近くで買い食い。鶏蛋仔(繋がったベビーカステラ)やらポテトやら何だかよく分からない内臓の串を食べた。これで割とお腹は満たされたが、香港を楽しみ尽くしたい彼女は飲茶に行きたいらしい。腹八分目であまり気が進まなかったが、たまに行く旺角の飲茶の店へ行くことにした。
飲茶に行きたくない理由は他にもあった。それはメニューがほんとんど分からない上に、店員に言葉が全く通じない点。案の定、彼女はトイレの場所さえ店員から聞くことが出来なかった。さて、僕たちは親切な店員数名に囲まれた状態で、同じ漢字文化でありながら理解不能な漢字の羅列とのにらめっこ。すると、相席していた香港の中年男性が満面の笑顔でお勧めを指でさして教えてくれた。そして、彼は親指を突き出して、僕たちに「ダイジョーブ」と変な発音で言った。
おじさんのお勧めで出てきたのは、肉まんの餡が入った揚げ餅と、鳥の足首(鶏爪)と、海老のシューマイ。鳥の足首は香港では定番なのだが、耐性のない彼女は一口食べて終了。あとはひとつくらい大皿も頼みたかったので、禁断の麻婆豆腐を注文した。香港では超基本的な家庭料理である麻婆豆腐は、こういう場所ではまず頼まないらしい。ただ、味は抜群で、この店の麻婆豆腐は彼女から世界一の称号を授与された。ちなみに、後日同僚の香港人に麻婆豆腐を頼んだ話をしたら大笑いされた。
(続く)