この日は朝からDMZツアーに参加するため、6時起きでホテルを出発。Above&Beyondを聴きながら、凍てつくソウルの街を闊歩。時間に余裕があったので、誰もいないダンキンドーナツで軽い朝食をとってから、待ち合わせのホテルへ。ツアー客は僕を含め5名だった。
西洋人4名と同じバスに乗り、まずは臨津閣公園へ。バスを降りるとソウルの上を行く強烈な寒さが全身を包み込んだ。この公園は朝鮮半島統一を願って造った公園で、言ってしまえば単なる観光地。
自由の橋は、休戦した1953年に捕虜が帰還したとされる橋。そこには平和祈願のための無数の短冊が飾られていた。最初に見た短冊には「不要戦争!北京」と書かれていた。
園内には慰霊碑や平和の鐘など、朝鮮戦争にまつわる様々な建築物があった。もっとゆっくり見たかったが、自由時間も少なく30分ほど見て移動。その前にこれ以上は寒さに耐えられない。
臨津閣公園から次の第3トンネルへは大型のシャトルバスに乗り換えて移動。バスの中のほとんどは中国人。途中、軍隊の人が入ってきて全員のパスポートをチェックした。ガイドさんの話では、第3トンネルまでの道のりには地雷がたくさんあるとのこと。
第3トンネルとは、朝鮮戦争休戦後に北朝鮮がソウルを制圧するために秘密裏に掘り続けた非道の象徴。現在、第4トンネルまで発見されていて、まだ見つかっていないものもあるだろうとガイドさんは言っていた。韓国は戦時下にあるという事実が浮き彫りになる。
トンネル内はヘルメットを被って中に入ることができる。トンネルは岩肌がむき出しで、むしろ洞窟と言ったほうが適切。ところどころにトンネル作りに使用したダイナマイトの跡が見えた。屈みながら緩い下り坂の洞窟を進むと、やがて行き止まりにぶつかる。行き止まりの地点には、これ以上北朝鮮軍が進めないようにと、壁を作り道を塞いでいた。(撮影禁止のため写真はなし)
続いてトラ展望台。ここではDMZを越えて北朝鮮を見渡すことができる。僕は早速500wonコインを投入して北朝鮮を望遠鏡で覗いた。初めてアダルトビデオを見た時のような高揚感と背徳感。ちなみに、写真撮影は安全面の配慮から、望遠鏡から5mほど隔たった位置からしか出来ない。
最後は韓国最北の国際駅である都羅山駅へ。北朝鮮と物理的に繋がる路線だが、現在は統制区域に属するため観光目的以外で乗車はできない。
500wonを払うとプラットホームまで入ることができ、改札では軍のお姉さんと写真が撮れる。この駅は単なる無人駅なのだが、「平壌」と書かれた駅名標を見るとやはり南北は繋がっているのだと実感できる。
帰りのバスの中で、南北分断について考えた。幸運にも赤く染まらなかった韓国の人達は、北朝鮮の現状と今の休戦状態をどう考えているのだろうか。同胞でありながら仇敵という複雑な関係は、日本人には理解するのが難しい。思えば朝鮮半島は帝国主義時代に日本に蹂躙され、冷戦下の世界では代理戦争の舞台になり、結果として国が分裂してしまった。そして、この分裂に加え、お世辞にも仲間とは言い難い中国と日本に囲まれている。この状況を克服するために強烈なナショナリズムがこの国で育まれるのは必然かもしれない。ツアーを通して韓国側の視点に立つことが出来たのは大きな収穫だった。
(続く)