ガラガラの市場で受けた洗礼



ぐっすり眠った翌朝、向かったのは函館の朝市。活気を想像していたが、驚くほど人が少なく、店先の呼び込みだけが元気だった。
商品を見てまわっていると、あちこちから声が飛んできて、落ち着いて買い物どころではない。写真を撮っていたら「写真だけなの?ちょっとちょっと~」とねちねちした圧が飛んできた。
朝ごはんは、栄屋という店で海鮮丼とイカ刺しを注文。「イカを釣りますか?」と聞かれたが、丁重にお断りした。
三十路の男が、店先の水槽で嬉々としてイカ釣りをする図は見苦しい。
曇天と螺旋階段とイカ飯と




この日の宿泊地は、北海道の難読地、長万部(おしゃまんべ)。鈍行列車でのんびり向かう道中、森駅で乗り換えのために途中下車した。
問題は、この駅での乗り換え待ちがなんと1時間半もあること。仕方ないので、退屈しのぎに駅近くのオニウシ公園まで足を運んでみた。
だがそこには、螺旋階段以外に何もない。とりあえず階段をのぼってみると、広がるのは重たい曇天の空。ここで駅前で買ったイカ飯をひとりほおばった。
長万部駅の衝撃




函館から鈍行で5時間。ようやくたどり着いた長万部は、特急も停まる駅なのにびっくりするほど外には何もなかった。
観光客の姿は皆無。そのなかで、駅前だけが妙にざわついていて、どうやらテレビの撮影準備が進められていた。
旅館までは徒歩で約10分。静かな道を歩いて玄関を開けると、かわいいレトリバーがしっぽを振って迎えてくれた。
完全なる隠遁生活


部屋はホテルというより、どこか懐かしい民宿のような趣。期待していた夕飯は評判どおりの豪華さで、カニを丸ごと1杯いただけた。
味は文句なし。ただ、真正面から見ると カニの造形はなかなかにグロテスク。これを食べようと思った先人は偉大だ。
食後は、誰もいない温泉にゆったり浸かり、備え付けの漫画を手に取ってぼんやりとページをめくる。宿に人の気配がほとんどないので気分は完全に隠遁生活だ。
雨の音以外に何の雑音もない夜。これはこれで情緒があっていい。