自然が遺跡を包む、タ・プローム寺院





カンボジア2日目。今日は一部で名の知れたガイド、ローズとともに アンコールワット(Angkor Wat) を巡ることにした。
最初に訪れたのは、映画のロケ地としても知られる タ・プローム寺院(Ta Prohm)。12世紀末、アンコール王朝のジャヤヴァルマン7世が母を弔うために建立した仏教寺院らしい。が、現在、遺跡の大部分は崩れ落ち、石の瓦礫となってあたりに散らばっていた。
その隙間をぬうように生い茂る巨大な木々を見ると、まるで自然が時間ごと遺跡を包み込んでいるようだった。文明の終わりと自然の始まりが同居するような風景には、ただただ圧倒される。
バイヨンの微笑みと停電の昼






次に向かったのは、かつて宇宙の中心と信じられていた バイヨン寺院(Bayon)。こちらもジャヤヴァルマン7世が建てており、およそ1,000年前の壁画や彫刻が、今なお美しい状態で残されている。
特に印象的だったのが、四方に顔を持つ巨大な石像。その表情はどこかクメール人(カンボジア人)に似ていて、穏やかで包容力があった。
カンボジアの遺跡は、ほぼすべてのエリアを自分の足で歩けるのが魅力だ。まさに遺跡のテーマパーク。観光というよりハイキングに近い。
昼前に差し掛かると日差しが強烈になり、僕たちは逃げるように早めの昼休憩を取ることにした。
遺跡の近くにレストランがあったので、そこでココナッツカレーを頼んだ。味はタイのカレーよりやや甘く、スパイス控えめで食べやすい。
食後、しばらくのんびりしていると、ふいに店内の照明が消えた。天井のファンも止まり、あたりに奇妙な静けさが広がる。
スプーンを手にしたまま僕たちは顔を見合わせた。
──なんと停電。
最初は冗談かと思ったが、ここでは日常の一コマ らしい。
アンコールワット──神秘と現実が交差する場所








午後はいよいよ念願の アンコールワット へ。12世紀初頭、スールヤヴァルマン2世によって建立されたヒンドゥー教の寺院(後に仏教化)で、クメール建築の頂点と称される。
実際に見てまず驚かされたのは、その広大な敷地。そして、全体をすっぽり包むような神々しい空。
──カンボジアの空は、今にも落ちてきそうなほど近くに感じる。
アンコールワットには、自然と人工の建築物の調和が生み出す神秘が宿っていた。パワースポットとはまさにここ。
長い石畳の道を抜け、ゆっくりと遺跡の内部へ。すると、扇子を手にした小さな女の子が「1ドル、1ドル」と繰り返しながら近づいてきた。
言葉の意味も知らず、ただ教えられたセリフを口にしているのだろう。その姿に、暑さとやるせなさが入り混じり、僕は静かにその扇子を受け取った。
プノンバケンの丘の僧侶たち






日が暮れる頃、僕たちは プノンバケンの丘(Phnom Bakheng)へ向かった。緩やかな山道を登っていくと遺跡が現れ、その階段を上ると夕日観賞のスポットにたどり着く。
丘の上には、すでに多くの観光客が集まっていた。夕日待ちの人の群れを見渡すと、その中には僧侶もいる。彼らが仲睦ましげに写真を撮り合っている光景は、実に俗っぽい…。
屋台にみる貧困の風景

美しい夕日を見届けたあと、6号線沿いの屋台街で夕食をとった。BBQ串2本とビールで1.5ドルだから本当に安い。
串を頬張っていると、ふと子供たちがすぐそばに立っていることに気づいた。すると、ローズは何も言わず、空になったビール缶をその子たちに渡した。あとで聞くと、缶は換金して小遣いになるのだという。
食事が終わり、ローズと別れた。彼はカンボジアを心から愛し、この国に誇りを持っている男だった。
日本語が非常に堪能なので、歴史や政治について濃い話ができたのが何よりの収穫。彼と語ることで、カンボジアの抱える暗い過去を改めて理解した。
賑やかな屋台街で空き缶を待つ子供たちの存在が全てを物語る。アンコールワットの衝撃とカンボジアの抱える貧困の光景が、この日僕の頭のまわりをぐるぐる回っていた。